班長のてびき

4.班の組織

 成功している実業家に、何のおかげで成功したかを聞いてみるとよい。自分の事業を注意深く組織し、仕事を正しい人にやらせるということが成功の大きな原因であると、彼は答えるだろう。このことは成功している班にもあてはまることである。

 よく組織されているグループは、多くのことを成し遂げ、ほかよりもずっと先に進むものである。組織ということは、結局次の3点に絞られる。
   1.班の大きさ
   2.その構成員の種類
   3.やるべき仕事


●班の大きさ

 班の大きさはどれくらいが適当だろうか?

 それは、いろいろな条件によって違う。−般的に我々が班について語るときは、普通8名を適当な人員としている。つまり班長、次長それにスカウト6名という構成である。しかし8名という数が必すしも理想的だというのではない。班にとって、もっと重大なことは、ほんとうに協力的なグループであるということだ。

 君の場合は6名がちょうどよい人数かもしれない。事実ほかの隊を見渡すと、6名の班よりも6名の班のほうがずっとよい例を見ることもあるだろう。4名しかいないが、正しいチーム精神があるために、すばらしい仕事をする班もある。いずれにしても8名が最大限であるべきで、それ以上になると扱いにくくなる。


●適当な人数は何人か?

 一般的に言って、もっとも理想的な数は、6人から8人の間のように思われる。6人以下になると、ゲームやいろいろな活動でほかの班といっしょにやっていくことが難しくなる。また、8人以上は多すぎる。最初は6人から始めるのがいちばんよいだろう。そしてそれ以上扱えることがわかれば、8人に増やせばよいのである。また、6人あるいは7人がちょうどよいと思うなら、その数で押し通しなさい。

 時が経ち、君がすばらしい班長であることを自分で証明したために、少年たちがたくさん君の班に入りたいと希望するようなときがきたら、君の班員はぐんぐん増えて、10名あるいはそれ以上にもなってしまうかもしれない。その時は、もうひとつの班を作って、もうひとりの者に班長になるチャンスを与えることだ。


●班の中の少年たち

 ここに少年の一群がいる。彼らはどんな種類の少年たちだろう。よい班を作るために彼らを動かしているものは何であるかを、考えてみる必要がある。どんな少年が君の班に適するかを知るために、P君の班の少年たちを調べてみよう。P君は3年近くも班長をしていたし、その期間中にあらゆる種類の少年たちを扱ったはずである。

(扱いやすい少年)
 たとえばC君がいる。当たりさわりのない少年という部類に入る。彼の家は裕福で、そこで彼は社交の心得とほかの人への思いやりということを学んだ。彼は何でも受け入れ、自分のやるべきことばさっさとやってしまう。特に野心的とは言えないが、自分から進んで物事を覚えようとする。P班長は彼を進級させ、いくつかの責任を負わせた。

 A君は、消極的という言葉がいちばんぴったりする少年である。自分から進んで物事はやらないがP班長の指導には喜んでついていった。自分で考えて自分でやることをひとつも考えたことはなく、何でもほかの人の言いなりになっていたが、それでいて面倒なことも起きなかった。

 P班長は、いつも注意していて彼の後押しをした。ごくまれにA君は自分の考えで□を開くこともあったが、そんなときP班長は、すぐさま助け船を出してA君に発言させるようにした。

 B君は賢いという言葉以外には形容のしようのない少年だった。彼は隊きっての分析家であり、あらゆる出来事に極めて鋭い批評眼を持っていた。
 ある点でどうして班が失敗したか、何をすべきであったかを確実に知っていた。そこでP班長はどうしただろう?すなわち、B君に次長という地位を与えて、彼の賢明さを善用したのである。

(比較的扱いにくい少年)
 R君はなまけぐせのある少年だった。心根はよく、班員に迷惑をかけるような少年ではなかったが、ただ、やるべきことをなかなかやらなかっただけであった。P班長にとってR君の目を覚ますことが第一の仕事だった。とうとう班のある仕事に興味を覚えさせることに成功したが、くり返しくり返し面倒を見なければならなかった。P班長がR君の忠誠心に訴えたとき、大きな効果が現れた。彼のだらしないやり方が班の不名誉となり、そのために隊での競点で、班がよい成績をあげることができないでいるのを、彼に知らせたのだ。

 そのことが、少しの間ではあったが彼をまともにした。R君が再びだらしなくなり始めると、すぐにP班長がR君を追い立てて仕事をやらせた。

 G君は典型的ないたずら者だった。しかし悪意は全然なく、元気がありすぎて走り回っているような少年だった。誰にでもいたずらをしないではいられず、自分も面倒なことにぶつかり、また班にも迷惑をかけた。

 P班長は、やろうと思えばG君を押さえつけることもできたのだが、それをやらなかった。そのかわりにG君の知恵を、班の作業や班の活動計画を考え出すことに使わせることによって、彼を班にとってはなくてはならない存在にしたのである。
 自分に負わされた責任が彼をまともにし、彼をいたずらから遠ざけ、彼の活躍は班精神を高めるのに大いに役立った。

(非常に扱いにくい少年)
 以上はP班長にとって取り扱いがそれほど困難な少年たちではなかった。しかしながら、どこの班でもそうであるが、彼の班にも2、3人ほんとうに扱いにくい班員がいた。

 そのひとりはJ君で、彼は典型的な気むすかしやだった。彼はいつも物事の暗い面ばかりを見る興ざましやだった。

 「日曜日にハイキングしたって何になるんだい。どうせ雨が降るに決まっているんだから」
 とか、

 「なんであんな料理コンテストに参加するんだい。負けるに決まってるじゃないか」
 などというのが彼の口癖だった。誰かが何かをやろうと提案すると、J君はいつでもそれをおじゃんにする理由をいくらでも発見できたし、たとえひと夏中かかってもやらないように議論しそうであった。

 要するに彼はみんなの手におえない存在であった。その彼をP班長は適当に扱った。つまりあっさりと無視したのである。J君は、誰も自分に注意を払っていないことを知ったときにほか人に従いはじめ、われにもなくみんなといっしょに楽しむことさえ覚えた。

 D君は、いわゆる「賢い」少年で、自分の才能を見せびらかし、何事についても皮肉たっぷりなことを言っていた。機会あるごとにP班長を引っかけようと努力していたが、P班長はその手に乗らなかった。D君は何でも知っていた。少なくとも自分では知っていると考えていた。誰が何をやってもそれはまずく、自分自身で一方的に自分のほうがずっと上手にできると考えた。

 P班長はゆっくり時を待った。いわゆる「賢い」少年を正すには、一度徹底的に毒気を抜くのがよいことを彼は知っていた。その機会は隊の夏季キャンプのときにやってきた。例によってD君は、何をすべきかについて長広舌をふるっていた。

 火の焚き方の実習になったとき、P班長は整列している班員たちの前でD君に向かい、「君、出てきて火の焚き方をみんなに見せたまえ」といった。大失敗をして、彼は割れた風船みたいなかっこうで戻ってきた。これが彼の欠点を大いに直すこととなった。彼にもたくさんよい素質があったのであり、それを表面に引き出してやりさえすればよかったのである。

 P班長が扱いにいちばん困難を感じたのは、弱い者いじめの少年だった。W君は典型的な弱い者いじめで、自分より小さい者にとっては、ほらふきで暴君だった。
 P班長は賢明にふるまった。
 W君が自慢する力は、彼があると思い込んでいるだけで、実際にはないものであることを知っていたP班長は、W君が2人の初級スカウトをつかまえて威張っている現場を見つけ、すぐさま2人に2級課目を教える仕事をW君に与えた。W君は、突然自分が今までいじめてきた班員たちの保護者になったことを知った。

  彼がゆっくりと変わっていく姿を見るのは、興味深いことだった。彼は班の中でも、いちばん働く班員のひとりになったのである。

  P班長が扱わなければならなかった少年たち、これが全部ではないが、これで君が直面しなければならない問題について十分わかったと思う。


●君の班員をどう扱えばよいか

  さて、P班長が彼の班員たちをどういうふうに扱ったかを振り返ってみれば、彼は、君の班でも適用できるような簡単な2、3のルールに従ったまでであるということがわかるだろう。
 すなわち、次の3点である。
   1.班員たちに対して、辛抱強く、また理解を示すこと。
   2.班員たちが興味を感じる仕事にいつも従事させておくこと。
   3.班のために特定のことをやらせる責任を負わせること。

(辛抱強<あれ)
 班の仕事をしながら、いらいらすることが何度もあることだろう。君が思うように物事が早く進まない。物事がうまくいっていない。こんなことが何回かあるだろう。

 しかし、無理押ししたり、しかったりしたところで、得るところは何もない。そんなことをすれば、班員たちを防御の立場に追いやり、君がやりたいと思うことの反対のことをさせる結果になるだけである。

 「ゆっくり、ゆっくり、あわてないで」これがベーデン・パウエルのスローガンのひとつであった。ゆっくり構えたまえ。そうすれば最後には皆が−所懸命君に協力するようになる。協力、すなわち皆がそれぞれに自分の役割を果たして、いっしょに働くことである。

 これが班の目標であるべきである。

(協力であって制裁ではない)
 制裁ということは、外部からの圧力で、つまり強制で物事をやらされることである。これに反して、協力ということは、各自が自分の分担をやリたいからやろう、ということである。この場合、各自の心の中に、各自の分担をやろうという意志が働いているのである。

 君がさせるからではなく、班員たち自身がやろうと欲し、しかもやることに意義を見いだし、班で正しいことを班員たちがやるというところまで持っていききれるならば、君の仕事は成功である。

 ある状況、あるいはやらなければならない仕事の理由を説明すれば、前もって困難や摩擦を除くことができる。前もってちょっと注意を払って「なぜなのか」を説明しておけば、後になって「なぜ」の質問攻めに会うことはない。賢い班長は、班員たちを信じ、そしてまた班員からも信じられるのである。

(いつも仕事をさせてお<こと)
 いつも仕事に従事させて、忙しい思いをさせておくということは、計画すなわち彼らが興味を持つ事柄をうまく配置することである。ところで班員たちは、スカウティングをするために君の班に入ったのである。だから、十分それをやらせよう。集会や、ハイキングや、キャンピングやその他、班の活気を保ちつづけるあらゆる活動を立案し、それを実行しなさい。

(責任を負わせること)
 世の中に出て行くこと、自分に頼るようになること、指導力を身につけること、これらのことを達成する場合に、「責任を持つ」こと以上に効果的なものはない。責任は、立派な少年を作り上げることが多い。いわゆる「賢い」少年や弱い者いじめの少年ですら、責任を負わせることによって変えることができる。仕事を分け、各班員に仕事を与える班の組織は、ほんとうの班精神を身につける大きな役割を果たす。そこで、この仕事に目を向け、班員たちにそれを割り当てて、やらせることにしよう。


●班の仕事

 君は、よく「ボス風をふかし」たがる班長に会ったことがあるだろう。彼はあらゆる集会をひとりで計画し、ひとりで会費を集め、ひとりで記録をつけ、ひとりで道具の始末をし、しかも自分はほとんど完璧であると信じ込んでいるから始末が悪い。君は彼がいないときの彼の班の状況を見たことがあるかな?

 彼が集会に来られないときは、まったく誰もいないのと同じである。というのは、彼以外には誰も、どうして会を進めていくのか知らないからなのだ。

 班の1泊キャンプに、彼がいっしょに行けない日は、何もかもめちゃくちゃになる。というのは、どういう手配をしたらよいのか、知っているのは彼だけだからである。

 班を運営するということは、ひとりでできるものではないということを、すぐに君は発見することと思う。
 何でもかんでもひとりでやろうとしたら、物事は成功しない。分担して班の仕事をするということは、班のためばかりではなく、君自身のためにも必要なのである。班員各自に、班の中で何かをやる機会を与えることによって、君の班員たち皆に、指導力と円満な能力を養う機会を与えることになる。そしてこれは、スカウティングを通じて、我々が成し遂げたいと思うことのひとつなのである。

(仕事を割り当てる)
 では班の中で各班員を、それぞれ一定の仕事で忙しくする計画について述べよう。

 その計画を君の班に当てはめるときは、あまり急いでしてはいけない。しばらく待ち、班員たちと1ヶ月くらい一緒にやってみてから、仕事と、それを割り当てる班員を決めたほうがよい。そのころまでには、君は各少年の持ち前の能力を知ることができると思うからである。

 班の組織、責任を各班員に割り振る。

 組織計画の基礎として、今、君の班に8名の班員がいると仮定しよう。もしそれ以下であれば、2つの仕事を1つにして、ひとりの班員に割り当てればよい。

 さて、ひとりひとりの場合について述べよう。
班長 これは問題ない。君の仕事だから。
次長 彼は君の片腕となる班員で、君と同じくらいに班を動かすものについて知っており、君の留守中に班を指導していける者でなければならない。
会計係 班費などを集め、班の会計をつかさどる。
記録係
(書記)
 班の報告や日誌を取り扱う。
備品係 班の備品器材の世話をする。
ハイク係 ハイキングやキャンピングの手配をする。
食糧係 班の献立表を作り、食糧を調達する。
衛生係 班員の健康と安全について、めんどうを見る。

(各スカウトを仕事につける)
 それぞれいちばん適する仕事に各班員をつけることだ。

 これにはある程度の研究と思慮が必要である。起こってくる事柄に対して、各スカウトがどう反応するか気をつけて見ていなければならない。そして、それぞれ興味がどういうところにあるか知ることである。

 たとえば、R君が算数にすぐれた才能を持っているのを発見するかもしれない。彼はお父さんから何かしらの小遣いをもらっている。彼は毎週土曜日に、その金銭出納帳をお父さんに見せなければならない。彼は班でいちばんきちんとしているようである。R君にはどんな仕事が適しているだろうか? そう、もろろん会計係である。

 J君はまた変わったタイプの班員である。彼はいわゆる本の虫で、手に入ったものは何でも読む。
 去年の夏旅行したときの彼は、すばらしい手紙を君に書いた。彼はまた、雑誌から絵や何かを切り取ってつづっている。

 君が彼を記録係にしたのも不思議ではない。このような調子で、ほかの仕事もそれぞれ割り当てるのである。

 もし君が、B君は備品係として、E君は食糧係として適任だと思ったら、ますそれぞれやらせてみることだ。うまくやれるならこれにこしたことはないし、また期待に反するなら、何かほかの仕事をやらせてみればよい。そうしているうちにはもっともよくできる仕事が見つかるものである。

>>>> 4.班の組織(2)につづく