班長のてびき

2.班の精神

  さてここにスカウトの一群がいる。彼らは君が先に立ってスカウト活動を楽しみ、スリルを味わい、そしてスカウト活動を通して、皆がむつみ合うよう雰囲気に自分たちを引きずり込んでくれるのを、君に期待しているのだ。

  彼らのからだの大きさや、知能や気質はそれぞれ異なっている。どの2人をとってみても同じ少年ではないが、お互いに共通点がひとつある。それは、彼らはスカウトであるということだ。つまり、誰か他の者にスカウトにならなければならない、と言われてスカウトになったのではなく、自分が選んだ道としてスカウトになっているのだ。

  ここで、将来、班が君たち皆にとって、何を意味するようになるかを、少しばかり考えてみよう。1年2年あるいはそれ以上の期間にわたって、君の生活は同じ軌道に沿って進むことになる。スカウ卜活動に対して同じ興味を持ち、班のために同じ夢と希望を持つのだ。

  君たちには共に大きな事柄を実行し、共に多くの冒険を味わい、スカウトの班に起こる失望、勝利、満足などすべてを共に分かち合うことになるのだ。この“共に”ということばに注意してみよう。それは真の班の生活を送るのに、もっとも大切なものである。

  “共に”ということばは、ある偉大なもの、すなわち班の精神に通ずる「合言葉」なのだ。


●班の精神とは

  班の精神は、ことばで定義できるようなものではない。それは人格、性格、または指導力とかいったものと同じもので、直に触れない限り、認識できないものである。それがどういう時に発揮されるかはわかっていても、そのほんとうの姿となると説明できない。それで、別の見方を取ってみよう。つまり、キャンプの備品作りであれ、トーテムポールを彫刻することであれ、またスカウト技能競技や廃品回収運動であれ、班がやることのすべてに熱と活力を吹き込むのが班精神である。

  班集会に楽しみと友情をもたらし、班のキャンプファイアに真の意義を感じさせるものそれが班精神である。地区大会で、火起こしコンテストが始まる直前に班代表のスカウトが「どうしても勝たなければならない。みんなを失望させることはとてもできない」と、思わず独り言を言わせるのが、班精神である。

  さらに、ひとりのスカウトからもうひとりのスカウトに対して「残念だけど、君といっしょに今夜映画を見に行くことはできないよ。今夜は班集会なんだ」と言わせるのが、班精神である。

  貧しいある班員が、キャンプの費用を工面して皆といっしょにキャンプに行けるようにするのには、どうすればよいかについて、額を集めて知恵を絞っているとき、そこに働いているのが班精神である。

  班長が、隊の善行行事の志望者を募った隊長に対して、「僕たちの班がやります!」というとき。それは、試練に耐える準備のできた班精神の表われである。

  自分自身の楽しみを、班全体のために犠牲にすることが価値あることであると思わせるもの、個人的な口論を押さえるもの、各人が正しいことをやろうとする気持ちを、たやすく引き出してくれるもの、雨が降ろうが日が照ろうが、結束して立つことの美しさを少年のひとりひとりに感じさせるもの、それが班精神である。

  班精神が注入されると、班は強くなり、ちょっとやそっとでは崩れなくなる。これなしには、班は単なる少年たちの寄り合いに過ぎず、いつ何時バラバラにならないとも限らない。


●班精神はどうして養われるか

  君のスカウトたちのグループを、ほんとうの班に作り上げる手段として、真の班精神を築き上げるために、君はできることは何でもしたいと思うことだろう。

  班精神がキノコのように一夜でできるものと思ってはならない。一夜でできるものではないし、また命令でできるものでもない。しかしそれは一本の木を育て上げるのと同じ方法で養うことができる。その方法とは、豊かな土壌を与え、骨身を惜しまず世話をし、太陽と空気と水を十分に注ぎ、窒息させようとする雑草を抜き取ったりすることである。

  たくさんの小さなことや大きなことが、いっしょになって班精神を作り上げている。

  たとえば、君たちが共有しているもの----隊の中でほかの班から君の班を区別するものがある。すなわち、班の名称、旗、記号、コール、歌、イエールなどがそれだ。

  次に共に作るものがある。それは展示会などでの班のコーナー、班記録、キャンプ用具などである。

  そして、何よりも重大なことだが、共にやる事柄がある。つまり、班集会、班ハイクやキャンピングであり、さらに隊の活動に、班として参加することなどである。この章では、君たちが共有するものを取り扱うこととし、その他のものはほかの章で触れることにしよう。


●班の名称

  今仮に、新しい班長のもとに新しい班が、ちょうど作られたものと考えてみよう。普通、次に何をやるだろうか。最初の集会で、班員たちはボーイスカウトポケットブックを出して、自分たちの班の名前をつけるために、班名のリストをのぞくことだろう。どんな物を選ぶだろうか。普通はおそらく簡単に“よさそうな”または“ひびきのよい”名前を選びたがる。

  「フライングイーグル(空とぶワシ)!うん、それだ。それがいい」といった具合である。ここでちょっと考えてみよう。このように無造作に選んだ名前が、班にとって意義のあるものだろうか?

  君の疑問は正しい。そう、あまり意義はないのだ。皆がもっと道理に適った方法で、名前を選ぶようにすべきである。班名は重要なものだ。念には念を入れて決めなければならない。だから新しい班を発足させるなら、班のスカウトひとりひとりにとって、ほんとうに意義のある名前を間違いなく選ぶように、たっぷリ時間をがけ、熟慮に熟慮を重ねるべきである。

  もしまた、すでに名の売れた古い班を君が引き縦ぐときにはその班名に恥じないように努力しなければならない。

  試みに、君の班員たちはみんな、水泳が大好きで、水中でも平気の兵左というカッパぞろいだとしよう。この場合君の班にふさわしい名前は何だろうか。もちろん「カウウソ」か「オットセイ」か、それに似たものだろう。同じように「パンサー」なら、班員はみんな忍び寄りの達人ばかりということになるだろうし、「ビーバー」なら、開拓の名人ぞろいということになるだろうし、「バッファロー」なら、村から村へと果てしなく流浪の旅を続ける者たちの集まりということになるだろう。

  今また君が、前からある「カウウソ」か「ビーバー」の新しい班長になったとしよう。この場合は、すでに築き上げられているこれらの班の伝統にそむかないように、努力しなければならない。

(班名の選び方)

  「あせるな」これがそのものズバリの班名を選ぶ場合のてきめんにきく助言である。決める前にじっくり時間をかけることだ。そうすれば名前は必ず浮かんでくる。こうして浮かんできた名前、それこそ探し求めていた名前なのだ。

  ある班の例をひとつ。
  班員たちは、約1ケ月もの間よい名前を選びあぐねていた。なかなかよい名前が見つからなかった。ある日、彼らは班の最初のハイキングに出かけた。森の中を進んでいくと、地面の上に動物の新しい足跡がたくさんついているところへきた。草の葉はひっくり返されており、それについている血痕は、2匹の動物がそこで格闘したことを物語っていた。そこで皆は、動物の追跡を始めた。足跡を調べ、地面に落ちている動物の毛から、格闘した動物はきつねといたちであると判断した。きつねが血だらけの獲物を引きずっていった跡を発見した。スカウトたちは、足音を忍ばせて跡をつけ始めた。突然すぐ近くから、きつねの鋭いうなり声が聞こえた。さらに用心して進むと、ついにきつねのすみかを発見し、すぐそばまで近寄って、親ぎつねが見張っている中を、子ぎつねたちが、獲物を食べているところを見ることができた。この出来事から、その班は班名を「吠えるきつね」とつけたのである。

  この班名を聞くたびに、班員ひとりひとりが、初めて忍び寄りを首尾よくやってのけたことを思い出すであろうことは、君にも十分想像できるはずだ。

  もうひとつの班の場合、その名前の由来は実に面白い。班員たちは皆、開拓作業(パイオニアリング)に興味を持っていた。そこで初めのころのハイキングで、狭い川に橋をかけた。その橋はなかなか立派に見えた。しかし班長は、通過のテストをすることを主張した。

  班員全部が橋を渡り始めた。ところが橋が持ちこたえたのは5秒そこそこ、見る間にポキリと折れて、7人のスカウトもろとも川に落下してしまった。幸いなことに」川は浅く、スカウトたちはひざまで水につかっただけだった。

  しかし、この出来事から、思いがけない拾い物として「ずぶぬれのバイオニア」という班名を頂戴したのである。外部の者にとってはこの名前はつまらないかもしれないが、その班員にとっては大いに意味があるのだ。

(動物と鳥の名前)

  ボーイスカウトの班には、動物や鳥の名前をつけている班が多い。このような名前には、何かしら戸外のにおいがする。さらにそれは、独特な鳴き声が、その名にちなんでつけられるという利点がある。
  こうして名前をつける前に、次のような角度から考える必要がある。
  君の住んでいる地方を代表するような動物や鳥は何か?
  君の班の中でやりたいもの、またはその中でほしいものをいろばんよく表わす動物や鳥は何か?

  アメリカのスカウトのある班は「ムースパトロール」と名づけている。というのは、原野でムース(大鹿)を追跡したとき、ムースが、彼らの班が目標としている、立派な体格と体力を持ったたくましい動物だったことが、強く彼らに印象づけられたからだ。山岳地帯に住んでいるスカウトの班にとっては「はねるかもしか」という名前がぴったりするだろう。  名前を選んだら、それに何かしらの独特な響きを持たせるようにすることだ。まだ単に「イーグル」とか「おおかみ」とかいうかわりに「空がける大わし」とか「さまようおおかみ」というふうにするのである。

(自然からとったその他の名前)

  動物や鳥のほかに、自然からとった名前はまだたくさんある。その中から好きな名前を選び出すことができる。
  は虫類の名をとった班もある。
  樹木の名をつけたものも多い。
  星座や星の名にも、きっと興味があると思う。

(歴史や伝説からの名前)

  郷土や国の歴史や伝説からもまた、よい班名を拾うことができる。アメリカでは「パイオニア」とか「レンジャー」あるいは「バイキング」などの名前の班も多い。
  また、歴史上の個人名をつけたり、部族の名を用いてもよいかもしれない。

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