班長のてびき

10.班の出し物

 隊のキャンプファイアは、もう相当進んだ。まったくすばらしいキャンプの日だった。午後のワイドゲームは大成功だった。そしていままでのところキャンプファイアの周りで、精神は非常に高揚している。

 しかし、突然小休止が訪れる。プログラムが同じ調子でてきぱきと進まなくなる。そのとき誰かが「フォックスの諸君、スキットをやろうじゃないか!」と叫び、たちまち皆が「フォックス! フォックス! フォックス! 立て! 立て!立て!」と唱和する。君は君の班を立ち上がらせなければならない。今ここでいう「フォックス」が君の班の名前でなくても、立ちあがってリードをとるべきである。

 他の全部の班が君の班に、キャンプファイアのプログラムを元気付ける役目を期待する理由は、これまでの隊集会やキャンプで、君と君の班員たちは、いつもそれをやる案を持っていることを証明したからである。

「たのしみ」の準備も整えておく われわれのモットーは「そなえよつねに!」である。このことは、まじめな仕事ばかりでなく、楽しみのためにも当てはまる。必要な時に、いつでもすばらしい出し物がやれるように、いつも準備を整えておくことである。それは他の隊員たちを喜ばせるのに役立つだけでなく。君の班員たちを緊張させておくすばらしい方法でもある。それ30kmハイクの最後のところの歌であれ、大会に入る前のイエールであれ、班のキャンプファイアの周りでの物語であれ、あるいは連盟のキャンポリーでの寸劇であれ、出し物が君の班だけでなく、他の人々のためにも物事を活気づける場合が多い。


●班のイエール

 班のイエールは、たぶんもっとも簡単で、しかもいちばん多く用いられる出し物だろう。

 イエールはとても面白いものである。それは、ありあまった熱意やエネルギーのはけ口である。そして、大声をあげて浮かれ騒ぐことを、少年らしいスポーツだと心得ている班員たちは、これで心ゆくまで騒げる口実を見つけることになるのである。しかしそれはまた、ひとつのグループの団結を固め、少年たちをひとつのチームに仕立て上げるのにも大いに役立つ。班のイエールは、班精神と、親密な友愛関係を築き上げるのに効果的である。

 だから、必ずイエールを奨励すること----もちろんいつもやれというのではなく、イエールを叫ぶ理由があるとき、いつでもやることである。

(演技係を養成する)
 イエールをリードするのが上手な班員が、普通どこの班にもいるものである。その能力を試してみること。もし生まれつきのリーダーがいなかったら、養成することだ。2〜3人の班員にイエールをリードすることに興味を覚えさせてから、ほんとうのリーダーのやり方を見学させる。たいていの場合、君の地方の高等学校の応援団長が、喜んで君の班員たちを指導してくれる。それが終わったら実際に班でやってみて、いちばん上手な者を君の班の演技係にする。

(イエールを作る)
 以下に良いイエールの例を示す。しかし、いつでも自分の班で作ったイエールが、いちばん良いものである。では、どうして作ればよいだろう? 例を示そう。君の班の名前は? ビーバー? よし、では行こう。
 ラーラーラーラーラーラーラー!
 ビーバーはいつでも忙しい
 雨が降ろうが、お日様が照ろうが
 ラーラーラーラーラーラーラー!
 ビーバー! ビーバー! ビーバー!

 すぐわかるように、このイエールは簡単な音節で、前と後に7つの「ラー」がついているだけである。前のラーラーは省いてもよいし、後のラーラーを省いてもよい。要するにこのようにイエールを作ることは、きわめて簡単なのである。

(班のイエールを使用する)
 君が班のイエールを決める前に、後に掲げるイエールのサンプルを参考にするとよい。

 班員たちが好きな班のイエールを作るか、あるいはどこからか借用したら、ほんとうの元気と熱意でやれるようになるまで練習させる。

 それから人や場所をたたえたいと思ったら、好きなイエールにその人や場所の名前をリズムに合わせて1回か3回つけ加えて叫べばよい。

 しかし、ただの叫び声は、ここでいうイエールではないということを忘れないこと。単なる音は問題ではない。君の班の生活で、イエールをほんとうに価値づけるのは、イエールの精神と意味である。

(各国スカウトのイ工−ル)
[アメリカ] アーメーリーカー!
ボーイスカウト!ボーイスカウト!
U−S−A!
[オーストラリア] コバ ヤー! コパ ヤー!
タナ カナ カズ ザー!
シャラブカ マラバラ!
エンゴンセマ! エンゴンヤマ!
ブック ラー! ブック ラー!
ナラベナ キャサレナ!
イルトンガラ! イルトンガラ!
ウック! ウッウ! ウック!
[イギリス](指導者・班長級のもの) そなえよつねに! そなえよつねに!
さけべ! さけべ! さけべ!
初級の者よ! 2級の者よ!
1級の者よ!
[イギリス](一般班員のもの) リーダー:ぼくらはだれだ?
班員(コーラス):ぼくらは、おとなしい少年たちだ!
フーハー! フーハーハー!
フーハー! フーハー!
フーハーハー!
その名は わし班!
わし班万歳!(このほか、いろいろな班名)
[カナダ] アイ、ジー、イット タア キー!
アイ、イー、ジップ!
ボーイスカウト! ボーイスカウト!
さけべ! さけべ! さけべ!
カンタ テタ バー バー!
カンタ テタ ター!
すすめ、ボーイスカウト!
すすめ、ボーイスカウト!
ラー! ラー! ラー!
[デンマーク] チカリッカー! チカリッカー!
チャウ、チャウ、チャウ!
ボマラッカー! ポマラッカー!
シス! ブーム! バー!
デト ダンスク スペジャーコース!
ラー! ラー! ラー!
[デンマーク](賞賛の拍手を送る場合) ブーラーボー!
ブラボー! ブラボー! ブラボー!
(はずみをつけて、きびきびした調子でいう。たとえば、ブラウ!ブラウ!ブラウ!というように)
[オランダ] リック! ティック!
リック ア ティック
ア ティック!
ポプサ! ポプサ! ハイ!
(3回繰り返す)
[フランス] アディジ アディジ アーオーアー!
アディジ アディジ シム ボム バー!
アーオーアー! シム ポム バー!
アー! アー! ア・ア・ア・アー
(4行目の最後のアーは、ちょうど風船の空気が抜けるときの調子で)
[アイルランド] オレイ イレイ イッコリー アン!
フィル ユア ファーザーズ
ヒッコリ ジャン!
フーパイ スコーリー!
オイリッシュ マリー!
ヒガラム! スティガラム! ジャンプ!


●班で歌をうたうこと    .

 歌の上手な班は活気がある。歌は君たちの精神を鼓舞し、道を短くしてくれ、むずかしい仕事を容易にしてくれる。歌はキャンプファイアの周りや、道を歩きながらだけでなく、班集会でもうたう。歌をうたうのが楽しくないのなら、君の班は良い班とは言えないだろう。

 君がごく普通の声を持ち、歌を指揮することを知っているなら幸運である。しかし、君自身が指揮するだけでなく、班員にも指揮する機会を与え、君のチアマスター(演技係、ソングリーダー、イエールマスターなど)を激励して、よいスカウトの歌を探させなければならない。

(いつ、何を)
 君の班が、何かむずかしい仕事をしているとき歌をうたえば、仕事のスピードを早めてくれるのがわかるだろう。このことは、ハイキングにも当てはまる。目的地へ向かうときは、歩調を合わせるために活気のある歌をうたい、家路をたどるときには、何かしら熱のこもった歌をうたえば、最後の2、3kmの間、疲れ切った足を動かせてくれるだろう。

 しかし、君たちがいちばん多く歌をうたうのは話すことや、することが全部終わってから、キャンプファイアを囲むときである。いずれにしても、君の班に適し、行事の精神にぴったりするような歌を選ぶことが大切である。

 世間では、毎年たくさんの歌が発表されるが、2、3週間もすると放送から消えてしまう。そして、たいていの場合、2度と口ずさまれることはない。しかしながら、幸いなことに毎年いくつかの良い歌の収穫があって、それは生き残っていく。

 趣味の良さを発揮して、よいスカウト運動にふさわしい歌を選ぼう。といっても、その歌がみなまじめなものでなければならないということはない。むしろ反対に、あらゆる場合に適する、いろいろな要素の混じった歌が必要である。

(皆か参加すること)
 君の班の全員が参加するのでなければ、歌をうたって楽しむことはできない。君の班にすばらしい歌の名手はいないかもしれないが、歌がそんなに上手である必要はなく、だいじなことは、合唱するときに自分のベストを尽くして歌うことである。班員たちがほんとうに歌うように注意すること。歌うかわりに、大声でがなりたてる者が非常に多い。大声を出すことが上手な歌い方ではないのだ。

 ひとつの歌を始める前に、指揮者----君かあるいは別の人----は、その歌の曲と歌詞を確実に知っていなければならない。そしてその中に溶け込んでいくのである。指揮者に従って歌を4、5回繰り返し、班員たちが喜んでそれを覚えれば、歌うことそのものに楽しみを感じるようになる。

 最初は古いよく知られた歌に集中すること。あとで他のものを付け加えて、班の誇りとなるような曲目を築き上げることである。

(歌を選ぶこと)
 ある行事のために歌を選ぶ場合、その行事の状況と雰囲気を考えること。キャンプファイアの炎が燃え上がるときは、元気に満ちた爆発的な歌を選ぶ。炎が燃えつきるころには、当然静かな歌を選ぶ。厳粛な儀式の場合には、まじめな愛国的な歌がよい。そして気分をかえるためには、快活で陽気な歌に切りかえる。

 ボーイスカウト歌集やキャンプソング集などを入手して、その中からよい歌を選ぶこと、それらには、君たちが知らなければならない、すばらしい歌がどっさりのっている。古い歌もたくさんのっている。和音に適したものも多い。黒人霊歌や宗教的な歌、民謡やカウボーイの歌などいろいろある。

 輪唱はたいてい人気がある。「静かな湖畔」「鐘」「キャンプの夜」「森の野営」などは、そのほんの2、3の例にすぎない。

 快活な曲では、「ハイキングの歌」「裾野を越えて」「たのしき野営」「ぼくら元気」その他たくさんある。これらの曲は、ハイキング中の班に元気をつけるのに特に効果的である。

 それからまた、いろいろなおもしろい歌詞や、繰り返しのついた曲がある。「10種野営料理法」「クイカイマニマニ」「ホルディリア・クック」その他がその例である。この種の歌は、いくらでも挙げられる。

 そして最後に、厳粛な行事のためには、愛国的な歌すなわち「国歌」をはじめとして、「連盟歌」「そなえよつねに」「清き風」などがあり、元気を鼓舞するスカウトの歌としては「光の路」「名誉にかけて」「月下の営火」などがある。

(歌を集めること)
 班がうたう歌のリストかスクラップブックでも作ること。それに班員が覚えてくる歌や、君が隊から覚えてくる歌を付け加える。そうすればいつかは、君の班に完全にマッチする曲にぶつかることだろう。その時は、その曲を班歌として採用し、歌詞をつける。班員たちの中に詩人がいないと誰が言えよう。もしいなかったら、君たちの両親や学校の先生、あるいは町の知名人などの助けを借りるとよい。頼み方さえよければ、誰でも喜んで手を貸してくれるだろう。

 歌ができたら、班員たちをうまく歌えるように訓練して、あらゆる機会に歌うこと。

 このようにして君の班の伝統は築き上げられていくのである。


●話し方

 うまく話ができるという能力は、班長としての仕事をしていくうえに、非常にためになることがわかるだろう。話をすることは、キャンプやキャンプファイアを囲んだときなど、特に効果的であるが、班集会でも同様のことがいえる。

 班員たちは、話には喜んで耳を傾けるものである。ただし、話がおもしろく、しかも話し手が上手な場合に限る。話し手自身にとっては、班員たちが話の筋の進展にかたずをのんで聞き入っているのを感じると、特別な満足感を覚えるものだ。

 はじめ君は「とんでもない。ぼくには話なんてできませんよ」というかもしれない。言葉をつなぎ合わせて、ある状況を説明するのに必要な想像力と能力は、自分には無いという考えにとらわれるかもしれない。そんなことで落胆してはいけない。生まれつき話し方の才能を持っている人は、ほとんどいない。やろうと思えば、ほとんど皆その能力を身につけることができるのである。

(どうしてその才能を身につけるか)
 いつか君は、すばらしくおもしろい物語を読んで「これを次の班集会でやったら、すばらしいだろうなあ!」と思うようになる。そのとき読んでいる本か雑誌を投げ出して、「しかしぼくにはできない!」といってあきらめてはならない。思いきってやってみること。すると、思っていたよりやさしいことがわかるはずである。

 物語を朗読して聴衆を引きつける人もある。しかし、読んだ話を君自身の言葉で表現するとなおよい。そうするためには、その話を覚えなければならない。それもただ覚えるのではなく、物語の状況や作中人物の行動なども、はっきりと頭に刻み込まなければならない。そしてもう一度読み返す。それで都合3回読む。そうすれば話の筋は心に刻み付けられ、作中人物が君の心の中で生きるようになる。

 ここでしばらく座って、作中人物のお互いの関係と、各人物が果たす役割について考える。はっきりしない点があったら再び読む。

 話が君の心に定着したら、部屋の中の目覚まし時計か本箱に向かって、大きな声で話してみる。最初はむしろ無味乾燥であるかもしれない。でも気にすることはない。2回3回と回を重ねるごとに、活気と色彩を加えながら繰り返す。君の声を作中人物の性格や、作中を流れる雰囲気にマッチさせるよう努力すること。

 そして最後に、班集会やキャンプファイアで、プログラムに合わせてまっすぐにその話の中に飛び込んでいく。うまくできないのではないかなどと恐れてはいけない。話そのものがおもしろければ、班員たちは耳を傾ける。そして話が進むにつれて君自身が話の中に溶け込んでいき、自信がついてくる。話が終わったあとの拍手かっさいで、君の話が成功だったことを知る。

(話の種類)
 前に言ったように、成功、不成功は物語自体によることが多い。だからそれは、よい物語でなければならない。そのため、注意して選定すること。図書館や手持ちの本あるいは雑誌の中から、よい物語を見つけ出すことができるだろう。あるいはまた、新聞のニュースをもとにして、自分で作り出すこともできるだろう。しかし、班員たちがまだ知らない物語を選ぶように注意することが大切である。聞き手が隣の者に向かって、「なんだ、あの話なら、ぼくが小さいとき、ゆりかごで聞いてあんまりおかしいので、笑っておっこちたのさ」とささやくのを聞くのは、あまり愉快なものではない。

 どんな種類の話であれ、動きの多い話でなければならない。作中で物語が進展し、クライマックスに達し、上手に終わるようなものでなければならない。

 話が終わったら、そこでストップすること。ひとつの教訓を引き出すために、もう一度話に戻ってはならない。作中に教訓が含まれているなら、班員たちは自分で十分にそれを感じ取るはずである。

(班員皆がりっぱな話し手)
 話し方はもっぱら勇気の問題である。思いきって飛び込んでみれば、話を重ねることにだんだんやさしく感じていくものである。

 君が上手になったら、班員たちを激励してやらせてみる。者が手本を示し、手をとって教えてやれば、班全体として皆がそれに参加してくるようになるだろう。

 班集会やキャンプファイアがあるたびに、話の時間をはっきりと設けて、班員たちにやらせてみることだ。いちどはじめてみると、班員たちが話し方をほんとうに楽しむのを見て、君は驚くに違いない。


●班のゲーム

 イエールや歌が、いろいろな集会やハイクやキャンプに必要であるように、ゲームもまた同様である。ゲームは、いろいろな種類の班の活動に味と変化を与えるのに非常に役に立つ。

 ゲームをいくつか手元に用意しておき、必要な時にいつでも、すぐにやれるようにしておくこと。

 スカウトゲームの多くは、野外と屋内両方でやれる利点を持っている。そしてさらに、隊集会やキャンプで、隊全体でできるものが多い。よい参考資料として「スカウトゲーム」が連盟需品部で発売されている。


●班の寸劇

 それでは最後に、班の寸劇(スキット)について述べてみよう。それは即興的な、普通はユーモラスな劇で、隊や地区のキャンプファイアや、父と子の夕食会や、隊の家族集会のときなどに上演できるものである。

 この班の寸劇については、多くの班や隊は、もっともっと力を入れなければならない。この寸劇を盛んにすることは、創作する能力を刺激するものであり、班の中でその試演をすることは、このうえない楽しみである。さらにまた、寸劇で演技することは、生まれつき内気の少年が、はずかしがりをなくすのにも役立つことだろう。それはまた自己表現するという、めったにない機会を班員たちに与える。さらに、君の班にいるかもしれない「いたずら者」の精神を、きわめて建設的に利用することができる。

(何を選ぶか)
 一般的にいって、厳粛なものより、おもしろみのある寸劇を選んだ方がよい。厳粛な劇でちょっと失敗すると、期せずしてそれがおかしなものになり、その結果、全体が失敗となる。おもしろみのある寸劇でちょっと失敗すると、おもしろみがますます増すだけである。

 厳粛な寸劇を必要とする場合もあるだろう。そんなときには、指導、練習を十分にし、正しく上演されるように十分気を配らなければならない。

 厳粛なものであれ、またおもしろみのあるものであれ、寸劇は簡単なものでなければならない。込み入っていて、多くの練習と助力が必要な劇は避けること。

 もうひとつ重要なことは、できるだけ多くの班員を寸劇に参加させることである。2人でやる寸劇は2人にとっては申し分ないが、他の班員たちには劇に参加する機会が与えられない。ちょっと頭を働かせれば、役者2人の寸劇を、班全員が出演するようなものに拡大することが多く、このようにして、より大きな楽しみを味わうことができる。

(寸劇をどこで探すか)
 寸劇を探せるところはいくらでもある。余興やパーティーに関する本を君の地方の図書館で探すとよい。その本にはたいてい寸劇全文が書かれたものもあり、また提案にとどまっているものもある。

 もうひとつの探し方としては、レクリエーション協会から発行されている「スタンツ」の本を参考にすることである。

 しかし、寸劇は普通自分で作ったもののほうがおもしろいものである。いろいろな少年雑誌のジョークを多分君は読むと思う。そのジョークのひとつを完全な寸劇として演出できる場合が非常に多い。

 ラジオやテレビの無駄話や冗談からも材料が得られるだろう。最近の班や隊のハイキングやキャンピングの出来事を寸劇に仕立てることができる場合も多い。

 君の目と耳を開いて、また班全体にもいつも注意させて、班の寸劇を探させることである。

(寸劇を作ること)
 次に寸劇の作りかたの例を2、3挙げてみよう。

 雑誌を開けると、ひとりのスカウトが街の交通の激しいところで、多くの見物人に囲まれ、交通を遮断しながら、摩擦で火を起こしている漫画が出ている。彼のかたわらに立っていた男が、申し訳なさそうに交通巡査に向かって「私が彼に頼んだのはマッチだけだったのですが」と言う。

 班の寸劇としては、まだ強さが足りないが、利用できるアイデアがそこにある。道を聞いている人をテーマにするとか、時間を聞いている人をテーマにするとか、この際のアイデアを利用して寸劇を考えてみよう。

 まず寸劇があることを発表する。説明者は観衆に向かって、舞台はある晴れた日の交通の激しい道路の一角であることを説明する。

 班員が入ってくる。ある男が班長に向かって「すみませんが、今、何時だか教えていただけませんか」と聞く。「よろしいですとも。ちょっとお待ちください」と班長は答えて、周りのスカウトたちに命じて地面に棒を何本も打ち込ませ、それをひもでつなぎ合わせ、またあらゆる方向に線を張り出させる。そして最後に班長は「お待たせしました。今ちょうど9時32分です」と答える。
男はいささか面食らって「どうもありがとう」と言って歩き去っていく。スカウトたちが棒やひもを取り除いている間に、男がまた戻ってきて「さっきのやり方は太陽が出ているときは、なかなかよい方法ですが、雨が降っているときはどうするんですか」と聞く。班長は「その場合はまた方法がありますよ」と答える。「ほう、いったいどうするんですか」とその男。「なあに、ちょっと腕時計をのぞくだけですよ」と班長は答え、時計を出して「ハイ!ちょうど9時32分です」といって幕。

 ジョークを寸劇に仕立てる手順を君は知った。次はスカウティングの出来事を寸劇にすることができるかどうかを見てみよう。

 何を材料に使おうか? この前の隊集会でやったフォックス班の救急法を材料にしようか。題名は「重傷手当て班」としたらいいかもしれない。

 あるいはまた、隊キャンプでのパイ作りを材料に使おうか。これがいいようだ。

パイを2つ作る準備をしている。2人のスカウトが現れる。小麦粉があたり一面に散らばっており、練り粉があっちこっちにねばりついている。ついに練り粉を練り上げてパイ皿の上に置く。ひとりがそれをオーブンに入れるために運び去っていく。外側で大きな爆発音が起こる。パイが爆発したのである。(紙袋をふくらませて打ち破って音を出す)まもなく不運なコック(あらかじめ粉糞を凝らした別人)が全身包帯に包まれて運び込まれてくる。幕。

 あるいはまた、この前の班ハイクで道に迷いかけたとき、君の上に危うく起こりかけた事柄を、冗談めかして描いてみるのもおもしろいだろう。

 班全員がハイキングしながら舞台に入ってくる。立ち止まって地図をのぞく。どの方向に行くかについて、皆無言で議論を始める。ある者は右を指差し、またある者は左を指差す。最後に全員退場。
 しばらくして前と同じ方向から、再び舞台に入ってくる。(大急ぎでキャンプファイアの周りを回って)今度はさっきよりもゆっくり動き回る。再び地図をながめて議論を始める。もう一度それをやる。皆疲れる。それからまた議論をやる。最後に議論している間に、白いシーツとタオルでアラビア遊牧民の服装をした男がひとり入ってくる。そして君は今どこにいるかを発見するために、彼と無言で話を始める。そして最後につぶやくような「エジプトだ。ぼくたちはエジプトにいるんだ!」という声が聞こえる。次長が班長のところへ歩みより「ぼくが言ったでしょう。我々はメインストリートから左へ曲がるべきだったんですよ!」と言う。

 以上はほんの2、3の例に過ぎないが、君の班員や、隊の他班の班員たちの楽しみのために使うことができる寸劇を見つけ出す手がかりを、君に与えてくれることと思う。
班長のてびきを読んで

 外国のスカウトはエンターテイメントがとても上手である。それはキャンプファイアの出し物に留まらず、歓迎会などのパーティーや、仲間が集まったときなどのちょっとした時間まで、いつでも歌い、踊っている。実にすばらしい。

 私がボーイ隊長をしていたときの話である。世界ジャンボリーに参加したシニアースカウト3名が、帰国直後に実施されたボーイ隊の夏季野営に奉仕に来てくれた。WJに参加する前までは何もできなかった彼らが、向こうで覚えてきたネタでキャンプファイアを大成功させたのである。彼らはそれまでは「できなかった」のではなく「知らなかった」だけなのである。

 つまらないキャンプファイアから脱皮するには、外国スカウトといっしょにキャンプすることをお勧めする。できれば外国の地で。

 私は、このような「人を楽しませる」技能は、手旗やロープワークよりも重要だと考える。