班長のてびき

3.班と隊

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  スカウトの隊には、必ず班が存在する。しかし班自体のために存在する班というものはない。ひとつの単位としての生命のほかに、各班は、隊という大きな生命の中で、それぞれの役割を果たしている。隊は班を加え合わせたものなのだ。

  ひとつの鎖の強さというものは、その鎖を形作っている輪の、いちばん弱い輪の強さである。ひとつの隊の強さも、その中のいちばん弱い班の強さに過ぎない。だから君の班は、班員が真の隊精神と、隊が取り組む何事にでも、隊がよい成績をあげるのを助ける熱心さと、隊の理想への献身そして隊の指導者たちに討する忠実さを合わせ持たない限り、決してほんとうの班精神を持つことはできない。このような精神をほんとうのものにする事柄が2つある。
  1.隊の指導に君自身が心から力を尽くすこと
  2.隊の活動に君の班が熱心に参加すること

  この2つである。第1の事柄は、君が班長会議のメンバーであることによって実現でき、第2の事柄は、隊集会やハイキング、キャンピングを成功させるために、君の班の役割を十分尽くすことによって実現できる。


●班長会議

  君は、君の班を引き受けた瞬間、一役ではなく二役を引き受けたことになる。

  まず第1に君の班のリーダーになるわけであるが、同時に君は、君の隊のリーダーとなって隊を運営する仕事を分担することになる。

  班長章には、班長会議またはグリンバー会議----記章が緑色の線であるところからそう呼ばれている----のメンバーという特権がついている。君はこの会議で普通月に1回はほかの班長たちや指導者と会って、隊の活動を計画し、隊の問題を討議し解決する。この会議で君は、君の班の希望を述べ、班が現在やっていることや、これからやろうとすることなどを説明する機会を持つことができる。またここで、君の班の運営や班員たちの訓練について、指導や助言を得ることができる。またこの会議で君は、君の班を最善の班に作り上げるインスピレーションを得ることができる。

  さらに君はここで、隊の活動に積極的に参加するよい班を運営することによって、隊全体をよくするのに力を尽くしていることを発見することだろう。

(班長会議の構成)
  班長会議では何をやるのだろうか、まず調べてみよう。新しく班長になったばかりの者といっしょに、初めての会合に行くものと仮定しよう。 出席者は誰だろう。

  班長全部と上級班長がそこにいる。隊長は助言者として、また隊のあらゆる事柄に対する指導者として出席している。副長や副長補も、計画に参加するために出席しているかもしれない。隊付はその分担の役割を果たすために出席する。準備は整った。いよいよ会議の始まりだ。

(開会〜議事)
  上級班長が座長である。上級班長が欠員、または不在のときは、先任班長が座長をつとめる。座長は、会の秩序を保ち、出欠をとる。書記(隊付)が前回の会の議事録を読み上げる。それは短く事務的に、しかも要領よく行われる。

  誰かが、議事録をそのまま承認したいと動議を出す。
  「賛成の人は、ハイといってください」
  「ハイ」という声、これで承認である。

  みんなを見回して上級班長が「未処理の仕事はありませんか」と尋ねる.もちろん未処理の問題がある.副長補が、隊の次回のハイキングで、自然についての専門家がいっしょに来てくれることになったことを発表する。また、ほかの誰かが、福祉施設のための書籍や雑誌の収集活動について報告する。

  リーダーたちが、次々に前回の会合で自分たちに割り当てられた仕事についての報告をする。

(次の月の計画を立てる)
 「よし、それではこれからの計画をながめてみよう。皆も知っているように、我々が年次計画として立てた長期計画によると、来月は探検ということになっている。それについて君たちの考えを聞きたい」
上級班長が第1の議題についてみんなに意見を聞く。しばらく討議を重ねた後、全会一致で目的地が決定された。
 「しかし、ただ行って帰るだけではつまらないから、田舎を横切っていくことにしよう」
 「そうだそうだ。何でもかんでも突破していこう」
 「だけど君たち、それはちょっと難しいのではないか。それにはコンパスも地図もいるし、徹底した訓練が必要だ」
 「ますます、いいではないですか」

 討議はまだ続く。

  このような大きな行事には、十分な計画と、多くの訓練が必要である。徐々にプログラムの形を整えていく。コンパス使用法の実演、地形図の研究、屋内外のゲーム、ハイキング備品の購入、ハイキング献立の決定、食料リストの作成などがこの会議でおこなわれる。

  この大きな行事がすべり出すまでには、隊や班の集会で実に多くのことをやらなければならない。いっしょに来た新しい班長は、たくさんのノートを取る。彼の班員たちを興奮させるものがここにある。班の活気を持続できる、いろいろな活動がここにあるのだ。
  「これら隊に関わる事柄が、班長会議で検討される」のである。

(なされるべき決定)
  「何か新しい事項はありませんか」隊の活動方針の問題が出てくる。

  教会の音楽会の手助けをしてほしいという要請があった。
「誰か希望者はいませんか」
「僕の班の者の大部分がその教会に行くから、我々がやります」

と班長のひとりが申し出る。

  「救急法の講習会が近く始まるという通知があったが、それを受けたい班がありますか」もちろん全部の班が受講を希望する。

  その他決定を要する問題が提出され、処理されあるいは研究や処理のために誰かに割り当てられる。こうして新しい班長はあらゆることに耳を傾け、多くを学ぶ。

(班長の報告)
  それから新しい班長にとって、会議のうちでいちばん重要な事柄がやってくる。班長がひとりひとり立って、前の会議から今日までに、自分の班が何をしたか、どういう会合をしたか、どんな奉仕作業をやったか、どの班員が進級したかなどについて報告する。その他自分の班のメンバーたちの進歩を示すあらゆることについて報告する。

  新しい班長は、この報告を聞いて心を踊らせる。ほかの班はずいぶんいろんなことをやるものだ。なんとすばらしい班長たちだろう。自分もいつかあのようになりたいものだ。自分の番が回ってきても、新しい班長はあまり言うことがない。班長としての仕事が始まったばかりだからである。恥ずかしそうに自分の最初の班集会について報告をする。自分の班員たちは、必要なスカウトの規定を知っていること、ロープの結び方をいくつか知っていること、あと1ヶ月で初級スカウトに進みたいと願っている者がいることなどである。

  「出だしはなかなかいい。もし助けがいるならいつでもそう言いなさい」
と上級班長が言う。

  「副長補のおかげで、ぼくたちはうまくやっています。副長補はとてもよくぼくたちを助けてくれました」
副長補は隊長から、まさにこの仕事をするように指示されているのである。これがこの隊のやり方である。つまり、いつも誰かが班長を助けるために任命されているのである。

(隊長の話)
  隊長が立ち上がる。
  「さてみんな。我々は正しい道を進んでいると思う。もし諸君の計画したプログラムの結果が、予想の半分でもできたら大きな成功と見なければならない。我々の新しい班は、なかなかうまくやっているようだ。その調子で進んでほしい。
  次の会合にも、みんな、必ず制服を着て出席するようにしよう。今夜はこのくらいで話を終わろう」

  「会の後でちょっとお時間をいただけますか。ある班員にてこずっているのですが、僕のやり方が悪いか迷っているものですから…」
と班長のひとりが申し出る。

  「いいとも。ただし処方箋を書く約束はしないよ。それは君の仕事だからね。できるなら、いっしょに君の問題の診断をしてあげよう」
と隊長は言う。

  「すばらしい人だ。ぼくたちに仕事をさせる。自分がボスであるということをぼくたちに感じさせない。彼はみんなを助ける。ぼくたちみんなの友達だ。ぼくも班員たちに対して、ああでなければならない」

 新しい班長は、あらゆる問題への回答、すなわち「ただ、みんなの友達でなければならない」ということにめぐり合わせたのである。


●隊の活動における班

  すでに見てきたように、隊の活動----班がみんないっしょになってやるのだが----は、君もまたその正式メンバーである班長会議で決定される。
  そこで決められた計画や考えを班員に伝えて、みんなの協力を求めるのは、君の責任である。その計画は、隊集会であったり、ハイキングやキャンピングであったりする。また隊全体の中でよい成績をあげようとするなら、班員の特別の訓練を必要とするような、特別な行事であることもある。
  その計画はみんながそれを立派にやり遂げることを要求し、さらに各班での進級が、確実におこなわれることを期待している。


●隊集会に参加すること

  ある隊では、隊員全体が奉加して、1ヶ月に1回隊集会を持つ。また月に2回集会を持つ班もある。さらに班が全部いっしょになるときに、1週間に1晩集会を持つ班もある。君の班でどんなスケジュールを持つにしろ、班員が全員出席するようにするのは、君の義務である。ただ出席するだけでなく、時間に遅れることなく、しかも制服を着て出席させるのである。隊全体が、いちばんよい成績をあげることに誇りを持つことだろう。

  きびきび動作をし、服装をきちんとし、礼儀正しくふるまうように、君の班員たちを励ましなさい。

  合図があったら、第1番に待機の姿勢をとり、ゲームや計画が発表されたら、第1番に行動を起こしなさい。集会でのある活動が、前もって班員を訓練しておく必要のあるものであるなら、隊集会の直前の班集会のときにでも、班員全部が、その活動のために訓練を受けるようにしなさい。もし君が何かの実演かゲームをすることに同意してあるのなら、順番がきたら時を移さずにすぐやれるように、あらゆる準備を整えておきなさい。君の班を、あらゆる行事に参加できる態勢におくことによって、君は君の隊長が当然に期待する標準に近づくことだろう。


●隊のハイキング

  隊のハイキングがスケジュールに組まれたら、全班員に、決められた時間に正しく制服を着けさせ、ハイキングを成功させるために必要なあらゆるもの、つまり食料、炊事用具、コンパス、地図その他を持って集合させる。

  「しまった!忘れた!」または「考えつかなかった」などという叫び声を聞かないようにしなければならない。いつも物を忘れる班員は訓練が足りない班員である。ハイキングから、君の班が最大の効果を得るように努力しなさい。

  ハイキングでのあらゆる活動は、班長会議で、班員たちがよりよいスカウトになるのを助けるという特別な目的を持って、注意深く計画される。
  この目的は、班員各自が何をするにしても、一所懸命にやらねば達せられない。このことは、厳格なしつけを受けること、いいつけを注意深く聞くこと、命令には直ちに服し、敏速な行動をとることを意味する。

  途中では、班として固まって歩くことはごく自然なことだが、あまり党派的になることは避けなければならない。そうすることが自然であるときには、つとめてほかの班ともいっしょになりなさい。ハイキング中に、ほかの班長やその班員たちと、考えを述べ合って友情を深めることが多い。
  リーダーであることは、ほんとうに「ギブ・アンド・テイク」することである。君の隊長から目を離さないで、君が隊のためにできる何か特別なことはないかどうかを、いつも注意していなさい。

  君自身の班員たちに対してばかりではなく、ハイキングをスムーズにしかも効果的に運ぶために、君自身ができる事柄に対しても責仕を持つことだ。
  このことは、班長ばかりではなく、隊指導者としての仕事の一部である。君の隊長は、いつでも彼の「グリーンバー」を、自分の片腕として頼ることができるようでなければならない。


●隊のキャンピング

  隊集会やハイキングヘの班の参加について言ったことの大部分は、そのまま、1泊キャンプであれ、夏のキャンプであれ、隊のキャンプにあてはまる。君の班が、キャンプの作業やゲームを十分に分担し、キャンプファイアのための歌や劇の準備を完了し、訓練期間を最大限に利用し、割り当てられた仕事を早くやり遂げるようにするのは、
  君の責任である。隊のキャンピングで、君は当然に班員が規則を守るように指導しなければならない。

  君の班員たちは、消灯の合図が鳴ったら、第1番に就寝し、起床の合図が鳴ったら、第1番に起きなければならない。

  このことは、君がもし前もって班を正しく扱って、班員たちが正しいことを正しいときにやる自己訓練をするのを助けたのであれば、君にとって何も問題はないはずである。

  もしも、ほんとうの班精神がキャンプでも発揮されるとすれば、君が誇りに思うようなやり方で君の班が隊の生命に溶け込んでいくことは確実である。

  班員たちは、君とまったく同じように班のテントや炊事場を、点検で1番になるように清潔にし、そのスカウト技能をいちばん効果的なものにし、キャンプファイアでの出し物をどの班よりもよくやり、そのスカウト精神をいちばん強いものにしたがっていることを、君は発見するだろう。


●その他の隊活動

  大事なことは、あらゆる隊活動に全面的に、積極的に参加することである。もしも隊の奉仕作業計画に、社会のための善行行事が組まれるならば、それを成功させるように最善の努力を早くしなさい。もし、隊のために拠金することになったときは、君の割り当てを、いや、君の割り当て以上に責任を負って果たしなさい。またもし、隊が班の競争プログラムをおこなうなら、それに参加して勝ちなさい。

  競争といえば、スカウト技能のどの面のコンテストでも、競争が班員たちを大いに鼓舞して特別の努力をさせるのを見ることができるだろう。競争はまた、班の全員がその競争行事の準備に全身を打ち込むならば、班精神の涵養に大きな助けとなる。結局班の競技会をやるのは、隊のリーダーが、隊員たちがよりよいスカウトになるのを助けたいと希望するからである。

  もしも、君が隊とのチームワークや、隊への忠誠心や協力という考えを、しっかりと君の頭と心に刻み込むならば、君の班もまた、自然に同じ考えを持つようになる。その時に君たちは、ほんとうのスカウトの班になる道を進んでいることになる。


班長のてびき”を読んで

  はじめに、念のために「班」と「隊」の定義を確認しておこう。

  スカウティングにおける活動の単位は「班」である。スカウトは班に所属して様々な活動をする。
  ときどき、いくつかの班が集まって、チームワークや技能などを競い合う。それが「隊」である。「隊は班を加え合わせたものなのだ」と言明されているとおりである。余談こなるが、私は班、隊という日本語調は間違いだと思う。PatrolやTroopとは違ったイメージで受け取られるからである。

  さて、本題に入ろう。この章では、主に班長会議の進め方について述べられている。

  概ね、運営がうまくいっていない隊では班長会議ができていないようである。逆に、それなりの活動ができている隊では必ずと言っていいほど班長会議を実施している。それほどまでに重要な位置にあるのだ。

  では、会議の内容を見てみよう。
   ●出欠をとる
   ●前回の議事録の承認
   ●分担された作業の報告
   ●次の月の計函
   ●その他の検討事項
   ●各班の報告
   ●隊長の話

  「班制度は自治を経験する場であり、班長会議はさらに高度な経験をする場である」という話を何かの資料で読んだことがある。
  技能訓練ばかりが班長訓練ではない。班長会議は、班長訓練のひとつの手法である。正しい会議のやり方を身につけさせることがひとつの目的と言えるのではないだろうか。班を運営することも班長訓練だと言っていいのかもしれない。

  文中に出てくる隊長は、班長からの相談に対して「処方箋を書く約束はしないよ。それは君の仕事だからね。」と言い放っている。「目からうろこ」とはこのことである。
  我々指導者はあまりにも熱心になりすぎるために自分で処方箋を書き、班長の役割を奪い取っているのである。
  「進級の基準はどうすればいいのか」「どんなプログラムをすればいいのか」というような質問をされることがあるが、これは班長会議が決めることで、指導者が考えることではない。
  指導者はあくまでもアドバイザーである。班長たちに任せよう。「もし諸君の計画したプログラムの結果が、予想の半分でもできたら大きな成功と見なければならない」と述べられているように、レベルは問題ではない。班長自身の手で実施することが大切なのである。失敗を評価・反省して成長していくのだ。