班長のてびき
 この「班長のてびき」は、ボーイスカウト・アメリカ連盟が、世界友愛のために1950年に発行した、四海同胞(Universal Brotherhood)版をもとに1963年にとくに出版された日本語版にもとづいています。今活躍中の班長諸君の力強いよりどころとなるよう、そして次長や班員の皆さんの、よりよい資料ともなるように、日本連盟がまとめてこれからしばらく連載します。ご期待ください。

●班長諸君に寄せることば
 かつて、少年らしさがあまり見られない少年がいた。体も強いほうではなく、ほかの少年たちの遊びにも、あまり気をひかれなかった。事実、彼には、ほかの少年たちの事などはどうでもよかったのである。彼は、ひたすら自分の心の中で、ある夢の世界を追い続けていたのだ。

 そして、1月のある日、とはいっても昔のことではあるが、彼は、スカウトの一員となった。というのは、前の年のクリスマスに、彼へのプレゼントの中に「スカウトの手引き」が1冊入っていたからである。

 徐々にではあったが、彼は、スカウトの生き方やスカウトの行事、そしてスカウティングの理想実現に没頭するようになった。

 幸いなことに、彼のスカウト隊長は非常に頭の切れる人で、自分の隊員のひとりひとりが、何を考え、何を感じ、どんなことができるかを読み取って、ひとりひとりに伸びる機会を与えるように努めた。そしてある日、その少年も、いつの間にか班長になっていたのである。

 その時をきっかけに、彼は、スカウトとして、新しい人生の門出についたのだ。

 彼は、自分の責任を果たすことによって、物に動じない性格の持ち主となった。また、班員とともに野外で過ごすことによって、体もたくましくなった。班員の、少年らしい純粋な姿にふれて、彼もまた少年らしい少年に変わっていった。  しばらくの間、彼は班長として奉仕し続けた。そして徐々にではあったが、いろいろな分野の活動を身につけていった彼は、やがて、すばらしい忠誠心と団結心、そして共同精神で固められた彼の班の、機敏で活動的な班員たちを統率するだけの貫禄らしいものを、そなえるようになった。

 そして、班長としての仕事を重ねるにしたがって、そのうち機会があれば、自分の貴重な体験をほかの班員たちにも分け与えて、指導者としての彼らの努力が実を結ぶようにしてやりたい、と思うようになった。

 今、君たちの手もとにあるこの本こそ、その少年たちの夢を実現させてくれるものである。君がこの話に出てきた少年と同じように、班の務めをうまくやり遂げる幸運に恵まれることを祈っている。

ウイリアム・ヒルコート


●はじめに

 ボーイスカウト・アメリカ連盟は、全世界の人びとを結ぶ友愛の絆として、この「班長のてびき」を出版し、各国のスカウト組織に贈った。  この本の著者ウイリアム・ヒルコートは、スカウト、班長、そしてスカウト隊長として奉仕してきた人である。著者は、この本に、いわゆる実務的な学習法を取り入れ、班の組織、手順、そして指導者の任務がどういう仕組みになっているかを、誰でもわかるように簡単な表現で説明している。著者が、この本で勧めている実践課題は、すべてテスト済みのものであり、誰にでも実行でき、しかも、やりがいのあることが立証されている。

 この班長のてびきの初版が出たのは1929年で、各国の班長の間に熱狂的な反響を呼んだ。今度出されたこの四海同胞版は、同じ著者によって全面的に書き改められて、1950年に改訂初版が出された。多くの国で翻訳出版され、世界各地における友愛スカウト活動を広める上で一役を果たしている。

 私たちは、この本の読者となる君たち班長に、この本が君の指導活動の助けとなり、君を鼓舞するものとなるよう祈っている。そして、この本を読めば、君が班長として、君の務めに一層強い責仕感を持つとともに、その任務にともなう喜びを、いっそう強く感ずるようになるものと、心から信じている。

 めまぐるしく変転する社会の現状は、優れた指導者の輩出を強く待ち望んでいる。班長である君は、前途に待っている数々の仕事を、今のうちから自主的に訓練してやれるようになる、ひとつの機会に恵まれていることになるのだ。

 この本が、君の長い活動の旅で、君の楽しい友となり、君の進むところは、どこにも幸せが待っているように祈る!