日本ボーイスカウト茨城県連盟
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目次

 

●ヤトのまき

  一、石のつぶて

  二、おとりのかご

 

●ジロッポのまき

  三、足あとを消しながら

  四、なわを回して

 

●ツキノワのまき

  五、赤い花の悪ま

  六、山つなみ

 

●PDF版(一〜六)

 

足がら山物がたり

 

発行 ボーイスカウト日本連盟

(昭和54年3月)

 

 

 

 

 

●ヤトのまき

 

 

一、石のつぶて

 

 

 今から千年も大昔の、天延という年号のころの物がたりであります。

 広い広い大空の東から、春の日が、緑の風に乗って、あたたかい光を

投げながらやって来ました。

 

 ここは、相模の国と駿河の国とにまたがったあしがら山の高いいただきであります。

 春が来たといっても、西の向こうに見える富士の山は、まだまっ白で、このとうげの山かげにも、のこりの雪が見られました。

 

 その雪の上に、こじかの足あとを発見した金太郎は、

  「ジロッポの足あとだ――」

と、うれしくなりました。そして、その足あとをおって、尾根のうらまでやって来ましたが、そこからは、ふかい谷間で、谷ぞこには、酒匂川の上流が流れていて、岩の上を流れる水は、きれいにすみ切っていました。

 

 その谷川の切り立ったがけの上には、大きな杉の林があって、南がわのけわしいがけぎわから、つばきの木が一本、枝を谷間へつき出すようにして、まっ赤な花を咲かせていました。

 そして、このけわしいがけの、どこを、どうしておりたのか、こじかのジロッポが………

 コツン!コツン!

 小づのの根もとを、つばきのみきへ、こすりつけていました。

 しかのつのは、毎年春になると、去年からのつのがおちて、また新しいつのがはえかわります。ジロッポも、つののおちる前なので、つのの根もとがかゆくて、そうしていたのでしょう。

 

 だが、金太郎は、ジロッポが、つばきの木に、いたずらをしているのだと思って、

  「お―い、ジロッポ、がけをおりてはあぶないよ、それに、そんなに立木をいためるものではない――

   早く、ここへ上がっておいで――」

と、しかるようによびかけました。

 

 すると、金太郎だとわかってうれしくなったジロッポが、思わず、げん気に大きくはね上がったので、かえって、

 「コツン!」

と、つばきの枝へ、小づのを強くつき当てました。それで、つき出た枝のさきから、咲きほこった花の一りんが、ほろりとおちて………

 ポトンと、水音を立てました。

 そして、すきとるような流れのうずに、くるくるまいながら、美しいつばきの花が、向こう岸の下手のほうへ、小舟のように流れて行きました。

 

 その行手の、大きな岩かげに、なにか、黒いけものがいます。

 金太郎は、けものを見つけて、ハッとしました。

  「黒い山犬だな――」

 そう思ってよく見ると、山犬ではありません。黒いけものは、太っちょで、後足だけ流れにつかって前かがみになり、岩と岩との間をのぞきこんで、右の前足を手のようにつかって岩あなへさしこみ、なにか一心に、とらえようとしていました。

 

 が、そのとき、けものの足もとへ、花の小舟が流れて来ると、そのけものは、これを見てゆだんしたのか、うっかり右前足を、岩あなのおくふかくへ、さしこんだようです。

  「いたいっ、いたいっ」

と、ベソ声を立てて、急に岩あなから、右の前足をひきぬき、人間のように後足だけで、まっすぐに立ち上がりました。

  「あっ、くまの子だ、月のわぐまの子だ――」

 そうです。そのけものの前首に、白い三日月がたのむな毛が見えます。こぐまは、朝ごはんのごち走に、さわがにをとらえようとしていたのです。

 

 こぐまは、ひきぬいた足の指さきを、いたそうにふってから、ぺろぺろなめ終わると、また、もとのように前かがみになって、こんどは、用心しながらまた前足を、そ―っと、岩あなへさしこみました。

 が、あなのおくでも、子がにたちをまもって親がにが、青光りした大きなはさみを、ぐっとのばして、待ちかまえていました。

 そして、こぐまの指さきへ、

  「こぐまなどに、負けてたまるか――」

と、力一っぱいはさみつきました。

 

  「いたたたたっ、いたい、いたい!」

 こぐまは、さわがににはさみつかれたままの右前足を、いたそうにひきぬいて、さわがにをふりはなそうと、人間の手のようにぐるぐる、強くふりまわしました。

 それで、さわがには、目がまわって、山や谷や流れまで、くるくるまわって見えます。

  「助けてくれ――!

と、さけびましたが、頭のなかが、クラクラッとして、耳のおくが、ジーンと、はげしく鳴って、なにもかもわからなくなってしまいました。

 

 そして、ハッと、思ったときには、こぐまの指さきから、強くふりはなされて、ブーンと、半円けいをえがきながら投げとばされ………

 バサッと、さわがにのおちたところは、大きなくりの木の、高い枝と枝との間に、まるく作られているりすのすでありました。

 すると………

 

 りすのすでは、思わぬお客のさわがにが、青みがかった大きなはさみを、ぬぅ―っとおし立てて、ブツブツあわを吹いているので………

  「たいへんだ。たいへんだ――」

  「天から、さわがにがふって来たよ――」

 りすの家ぞくは、大さわぎになりました。

 

 それでなくても、りすの家ぞくは、いつもくりの木の、枝から枝へと、いそがしくかけまわる運動が、大好きのようです。でも、きょうは、いつもの運動どころではありません。

 特に、りすの子どもたちは、まだ見たことのないさわがにの、かたい甲らを着た横ばいのすがたが、おそろしくておそろしくて、ただもう、あちらこちらへ、せわしくにげまわって、さわぎ立てました。

 

 また、親りすのなかにも、一ぴきのおく病者の父りすがいて、

  「天から、さわがにがふって来た。さわがにの、おばけがふって来たよ――」

と、あわてふためいて、みきを下へかけおり、くりの木の根もとの、つみ石とつみ石との、小さいすき間へ、サッと、とびこんで行きました。

 

 そこは、冬毛の白い野うさぎの一家が住んでいる石あなで、出入口は、やっと親うさぎが通れるだけの、せまいすき間ですが、石あなのなかは、野うさぎ一家の七わが、じゅうぶんくらせるだけの広さがありました。

 野うさぎの家ぞくは、自分たちより小さい父りすには、だれもおそれはしませんが、

  「天から、さわがにの、おばけがふって来た。おばけがふって来た――」

と、父りすが、そうぞうしく、さわぎ立てるので、野うさぎの父親がたまりかねて、

  「りすのおとうさん、りすのおとうさん、もう少し、しずかにしてくださいませんか――」

そういって、ちゅう意すると、

  「これが、しずかにしていられますか。くりの木の高い枝にある私らのすへ――川岸に住んでいるさわ

   がにが、しかも、天からふって来たのですよ。そのうえ、大きな青づめをふり立てて、ブツブツあわ

   を吹いています――今に、おたくへも、そのおばけが、きっとやって来ますよ――」

  「ハヽヽヽヽ、りすのおとうさんは、さわがにが、そんなにおそろしいんですか――」

  「ハヽヽヽヽ、りすのおとうさんは、さわがにが、おそろしくておそろしくて、ならないんだって

   ――」

  「ワ、ハヽヽヽヽ――」

 

 野うさぎの家ぞくは、みんな一しょになって、父りすのおく病さをわらいました。

  「でも、川岸に住んでいるはずの、さわがにが、天からふって来る――これは、かならず、おばけにち

   がいない――」

 父りすは、ほんとうに、さわがにのおばけだと思っているようです。

 

 そのとき、こうさぎの一わは、おとなたちが、つまらないことをいつまでも、くどくどいい合っているので、ばからしくなって、石あなから外へとび出すと、川岸づたいにわか草の上をピョンピョンはねて行きました。

 

 すると………

 谷川の流れにつき出た大きな岩の上で、つばさを休めながら、するどい目を光らせて、え物をさがしていた大わしが、こうさぎを見つけて、

  「しめしめ、朝めしのさかなが、わざわざ自分のほうから、ピョンピョンやって来た―」

と、大きなはばたきの音を立ててとび立ち、するどいくちばしをとがらせ、ぐっと足のつめを開いて、ただ一つかみにしてやろうと、おそいかかって来ました。

 

 で、こうさぎは、そのおそろしさに、早や気をのまれてしまって………

  「おかあさん――」

 助けをよぼうと思っても、のどから声も出て来ません。ぶるぶるふえながら、その場へすくんでしまいました。

 

 また、近くの岩かげで、さわがにをさがしていたこぐまも、強いはばたきの音を聞いてふり向き、大わしのすさまじいあり様を見て、

  「ぼくのほうは、大わしがとんで来ませんように――」

と、両目をつぶって、ガタガタふるえていました。

 

 が、そのとき、

 向こう岸から、あっという間もなく、石のつぶてが、

 ヒュー!

と、矢よりも早くとんで来て、大わしのつばさを、ハッシと、たたきつけたので、パラッパラッと、はねが七、八枚、空中へとびちりました。

 

 こうさぎは、さぁ、この間にと、ピョンピョンはねて………

  「おかあさん!大わしが――」

と、一生けんめい、せまい出入口から、石あなのなかへにげこみました。

 大わしは、おそろしい目を、ギョロッと光らせて、

 

  「だれだっ――鳥の王様の、このおれ様に、石を投げつけるとは――」

 そういって、石のとんで来たほうを、ぐっとにらみつけました。

 だが、なにを見つけ出したのか、急に、げん気がなくなって大わしは、バサッバサッとつばさをひる返すと、遠く東にそびえて見える丹沢山のほうへ、すごすごにげて行ってしまいました。

 

 それで、こうさぎは、岩のすき間から、大わしのとび去ったのを見て安心し、みじかいしっぽをちぎれるようにふりふり、石あなのなかから出て来て、うれしそうに赤い目をくりくりさせて、

  「だれが、ぼくを助けてくれたんだろうか――」

 と、ひとりごとをいって、ふしぎに思いながら、向こう岸をながめました。

 

 すると、向こう岸の、つばきの木の下で、一ぴきのこじかが、前足で、トントントンと、地面をたたいて喜びながら………

  「や―い!弱い者いじめの、大わし、足がら山にやって来ると、ぼくとなかよしの、金太郎さんがいる

   んだから――」

と、強がって、大きな声でさけびました。

 この声に、こぐまも、まるい耳を立てて、岩かげからはい出し、そーっとながめると、こじかの後に、自分のようにまるまる太った人間の子どもが、ニコニコわらって立っていました。

 

  「何者だろう――ぼくのように――後足で立っているぞ――」

 人間の子どもを、はじめて見るこぐまは――毛のみじかいからだに着物を着て、くまのように二本足で立って、大きなまさかりをかついでいる金太郎に、目を見はっておどろきました。

 だが、こぐまは、人間の子どもの、弱い者をいたわって助けてくれたやさしい心に、感心して好きになりました。そして、こじかのように友だちになりたいと思いましたが、谷川の流れがふかくて急だし、向こう岸のがけもけわしいので、こちらからわたって行くことができません。

 

 で、どうしたら、向こう岸へわたることができるだろうかと考えていると、

 コーン!コーン!コーン!

と、谷に、こだまがひびいて………

 人間の子どもが、大まさかりをふるって、高い大きな杉の木の、根もとを切りはじめました。

 そして、根もとを八、九分通り切りこむと、今度は、両うでに力をこめて………

  「うーん、うーん――」

 まっ赤な顔になって、杉の木を谷間へ、おしたおそうとしていました。

 

 それで、また、いきをのんで見ていると、

 メリッメリッメリッ!!

 はげしいひびきとともに、ついに杉の木をおしたおし、向こう岸からこちらの岸へ、どすん!!と、物すごい地ひびきを立てて丸木橋をかけました。

 で、このおそろしい力を見て――こぐまも、こうさぎも、こじかまでもが、目をまるくしておどろきました。

 

 また、野うさぎやりすの家ぞくをはじめ、あたりに住んでいるけものたちは、大きな地ひびきに地しんかと、みんなあわててすのなかから、われさきにととび出して来ました。

 こぐまは、今まで、この山でいちばん強い者は、自分の父ぐまだと思っていました。それは、森のきつねでも、山のいのししでも、父ぐまの一とたたきで、たたきたおされてしまうからです。

 でも、あの、大杉の木を、ただ一人で根もとから、おしたおした人間の子どもの、大力には、父ぐまでも、とうていかなわないだろうと感心していると、

 タゝッタゝッタゝッ………

と、すぐ、こじかが、とく意のひづめで、丸木橋を、こちらの岸へわたって来ました。

 そして、あたりを見まわしながら………

  「お―い、みんな、集まっておいで――この山で一番力持ちの金太郎さんだ。みんなと友だちになりた

   いって―」

と、大声でよばわりました。

 

 が、けものたちは、こじかの後から、二本足で丸木橋をこちらへわたって来る金太郎が、ピカピカ光る大きなまさかりをかついでいるのを見ると、みんなおそれて、すぐにはだれも、近づいて行こうとはしません。

 それで、こじかは、また………

  「なにをおそれているんだ。金太郎さんは、やさしい人だから、みんなをかわいがってくださるよ――

   さぁ、早くよっておいで――」

 

 そういってくれたので、第一番に太っちょのこぐまが、流れの岩かげからノソリノソリ岸へはい上がって来ました。そして、金太郎の人のよさそうな目を見ると、まさかりのこわさもわすれて、

  「ぼく、なかよしになりたいんだが――」

と、なかま入りを申しこみました。

 すると、こうさぎも、金太郎の足もとへ、ピョンピョンはねて来て、

  「ぼくも、友だちにしてください――」

と、ていねいに頭をさげてたのみました。

 

 で、金太郎は、大まさかりを立ち木に立てかけて、ニコニコしながら………

  「ぼくの名は金太郎、こじかの名はジロッポ、どうぞよろしく――これからは、みんな、なかよしにな

   ろうなァ――」

 そういって、あいさつをしましたが、こぐまにも、こうさぎにも、名前がありませんから、たゞ目を、パチクリさせていると、金太郎が、しまったといった顔つきで………

  「すまない、すまない、君たちには、まだ名前がついていないんだなァ――、では、ぼくが、よい名前

   をつけてやろう――こぐまをツキノワ――こうさぎをヤトとよぶことにしよう――どうだ、よい名前

   だろう――」

  「ぼく、ヤトだって――」

 

 こうさぎには、名前の意みがわかりません。で、金太郎は、これをせつ明するように………

  「そうだよ、君は、野うさぎだから、ヤト(野兎)じゃないか、そして、こぐまは、月のわぐまだから、そ

   のままツキノワとよべばいいよ――」

 「ぼくの名前、ツキノワか、きれいな名だが、だれよりもいちばん強そうな名前だなァ――」

 こぐまは、大よろこびです。

 

 すると、そばから、こじかのジロッポが口をはさんで、

  「ぼくは、二才じかだから、次郎っぽ――ジロッポという名前なんだ――」

 そういっていると、金太郎が、二、三ぽ前に進み出て、まじめな顔つきをして………

  「だが、名前が、どんなによくても、いたずら者の集まりではこまるから、みんなよい子になるよう

   に、一つここで、やくそくしようじゃないか――」

  「よい子になるやくそくだって?」

 ヤトには、また、わからなくなりました。

  「どんなやくそくを、ぼくらはするのかなァ」

 ツキノワにも、よい子になるやくそくがわかりません。

 

 すると、ジロッポが、先ぱいらしい口ぶりで………

  「ハヽヽヽ――君たち、あまり、むつかしく考えることはないよ――ぼくたちのやくそくというのは、

   みんなで助け合って、山や森のくらしをたのしく、いつもげん気にやろうということなんだ――」

 と、よくわかるように教えてくれました。

 

 

 

二、おとりのかご

 

 長い冬の間、はい色にくすんでいた足がら山の、山はだは、春の声を聞くと、急に尾根も谷も、一面に美しく、うすみどり色にぬりかえられました。

 

 そして、日当たりのいい尾根の南がわで、山つつじのかたいつぼみが、あたたかい光にふくらんで、白い花びらを開くと、うら山の、じめじめしたさわのほとりでも、いちりんそうと、ふたばあおいが、うすむらさきと、べに色の、かわいい花をさかせました。

 また、ひのき林のなかでも、高い木にからみついている山つぐみの、赤い花が、にっこりとほほえみました。

 

 それから、川の水もぬるんで、春もなかばごろになると、谷川のつつみの上に、大きな葉っぱを広げている富士あざみが、むらさき色もあざやかな花を開きました。

 そして、また、しばらくたって、野うさぎの石あなのある大くりの木のまわりでも、みどりにもえる草原に、き色い花のきれいなまんねんぐさと、むらさきの花の美しいたつみそうが、もう、すぐ、長雨のつゆがやって来ることを予言でもするように、あたり一面にさきそろいました。

 こうして、いろいろな花が、つぎつぎに、さきかわるごとに、山の動物も、きせつのうつりかわりを知ることができました。

 

 野うさぎの家ぞくは、小さいはこべの花が、みどりの草むらのなかに、黄色い花びらをのぞかせるようになったころから、毎日毎日、石あなから飛び出して、草と花のにおいに包まれながら、はねたりとんだり、また、親うさぎは、子うさぎたちに、てきからにげるための方法と、うさぎのしゅうかんやくらし方を、だんだん教えていきました。

 そうです。うさぎは、ほかのけものと、あらそうことをこのみません。もしも、おそろしいてきに出会った場合には、すぐに、物かげや草むらにかくれて、ジグザグと風しもの方へ大まわりして、あい手の思いもよらない所から、鳥の飛ぶような早さで、自分たちのすへにげて帰ります。

 

 ある日………

 子うさぎのヤトは、あまり遠くのほうまで、まわり道し過ぎて、つかれてしまったので、しばらく休んでいこうと、しゃくなげの木の根もとで、うすべに色の花をながめていると、つゆ空は、急に雨になって、ポツリポツリふってきました。

 いくら、子うさぎのヤトでも、だんだん大きくなって来たので、しゃくなげの花の下では、雨やどりができません。それに、つゆ時の雨は、ふり出すと長引くので、いそいで石あなへ帰ろうと、花の下から雨の中へ出てみると、いよいよ本ぶりになってきました。

 

 で、ビショビショどろんこになりながらはねて帰ると、その帰り道のおかの上に、ぐっしょり雨にぬれたひめゆりが一本、ふくらんだつぼみを、今にも開こうとしていました。

 つゆの雨は、草木にとっては、めぐみの雨ですが、野うさぎたちは、雨のなかでは、運動も草かりもできません。それで、石あなのなかにとじこもって、雨の晴れる日を待っていました。

 しかし、こんな間にも、さわのほとりや林の日かげの、ごみごみしている場所では、さなぎのなかから、新しい虫のなかまがうまれていました。

 

 やがて、つゆがあけると、すぐ、山は夏です。青々とせだけをのばした草のなかから、ほたるぶくろ、やぶむらさき、つりがねにんじん、そして、ききょうが、うすむらさきの花を見せてくれました。

 また、ふかい草むらのなかでは、ばった、つゆむし、きりぎりす、かまきりなどが、草色をした自分たちのからだでは、だれにも見つかるまいと安心して、とんだり歌ったり、大さわぎをしていました。

 

 だが、それも、夏の間だけのできごとで、だんだんかれはじめた草むらのかげで、すずむしやまつむしが、さびしい声で鳴き出すようになると、あのおかにもこのおかにも、おみなえしのき色い花がさいて、ふかいふかい谷ぞこの、岩間のところどころに、あきちょうじのうすむらさき色をした花が、ちらほらするようになります。また、すみわたった青空に、さわやかな風がふいて、ゆらゆらすすきのほが、しずかにゆれていました。そして、そのころになると、足がら山にも、実のりの秋がやってきます。

 

 で、大くりの木の枝々にも、くりの実が一ぱい、すゞなりに実のりました。

 

       足がら山に秋がきた

       き色い月にてらされて

       みんなわになれうさぎの子

       ペッタ、ペッタン

       ペッタ、ペッタンもちつきだ

       ちょうしあわせてきねつこよ。

                            (曲譜スカウティング誌五七号一頁)

 

 うさぎのなかまは、大昔から月を、神様だと、うやまっていました。

 それで、ヤトは、もう、ぽつぽつ冬毛にかわろうとしている着物を、きちんと着て、お月様をていねいにおがんで………

  「ことしはどうぞ、くりの実が、ぶじに取入れできますように――」

と、おいのりをしました。

 それは、毎年、この月のまん月が、三日月がたにかけはじめると、となり山の矢倉岳から、いたずらざるが数十ぴき、むれを組んでおそってきて、大くりの木の、くりの実を、一つのこさずさらっていくので、大くりの木のまわりに住んでいるりすや野うさぎや、その他のけものたちは心配で心配で、毎日毎晩集まっては、どうしたらよいだろうかと、山ざるをおっぱらうそうだんを続けていました。

 

 そこで、今日も、おしゃべりの父りすが、第一番に口を出して………

  「うさぎさん、うさぎさん――あんた方は、私たちとちがって、山ざるにもまけないほどからだが大き

   いから、一つ、ことしは、さるどもとたたかってくださいませんか――」

と、いうので、父うさぎが、野うさぎの家ぞくを代表をして、

  「でも、私たちは、平和をあいしていますから、そんなぼう力は、きらいです――山ざるだって話し合

   えば、なんとかうまく、話し合いができると思うのですが――」

と、父うさぎは、どこまでも平和に話し合いをしようという意見です。

 

 だが、父りすは、小さいからだを、むりに大きく見せながら………

  「話し合いですむなら、とっくの昔に、話がついているはずですよ――では、仕方がありません。くり

   の木のまわりに住んでいられるみなさん――いよいよ、山ざるどもとたたかわねばなりませんぞ!」

と、からだより大きいしっぽをふりふり、からげん気で、しかも早口で、そうさけびました。

 すると、他のけものなかから………

  「じゃぁ、私らは、きのぼりができないから、木のぼりじょうすなりすのおとうさんに、一番がけを

   やってもらったらいいじゃありませんか――」

と、からかい半分に、大きな声でさけぶ者がありました。

 

 これには、父りすもおどろいて、こんどは、ちぢかまるようにしっぽをまいて………

  「いえいえ、わたしらは、こんなにからだが小さいから、一番がけなんぞ、とんでもない、とんでもな

   い――」

と、だんだん小さい声で、つぶやくようにいいながら、後ずさりしてかくれてしまいました。

 

 こんなことでは、いつまでたっても、話し合いができそうもないので、きょうもまた、話がまとまらないうちに、みんなは帰ろうとしました。

 すると、そのとき、みんなの前へ、ヤトがピョンピョンはねて出て………

  「みなさん、待ってください。――ぼくは、このとうげで、矢倉山の山ざるを、こらしめてくださる方

   は、金太郎さん以外にはないと思います――」

と、自信ありげに発げんしたので、みんなも思い出したように………

  「そうだった――金太郎さんのことをわすれていた」

  「そうだ。そうだ――」

  「金太郎さんに、助けてもらおう――」

  「こんなときには、人間の力をかりるにかぎりますよ」

 けものたちは、金太郎が、ただ一人で、長い丸木橋をかけたことを知っていたので、みんな口をそろえて、ヤトの意見にさんせいしました。

 そして、みんな口ぐちに………

  「すみませんが、こうさぎさん、あなたから、金太郎さんに、おたのみしてくださいませんか――」

  「みんなを助けると思って、金太郎さんの家へ、たのみにいってくれませんか――」

 そういって、ヤトにたのみましたが………

 

 ヤトは、まだ金太郎の家へいったことがありません。でも、金太郎にたすけてもらわないと、ことしも山ざるのために、くりの実を一つのこさず、みんなさらわれてしまいます。

 で、ヤトは、金太郎が来るのを待っていても、いつのことかわからないので、こちらから金太郎の所へ行くことをけっ心しました。それは、丸木橋を向こうへわたれば、金太郎か、ジロッポの足あとが、のこっているだろうから、その足あとをおって行けば、金太郎の家へ行き着くだろうと思ったからでありました。

 そして、丸木橋のなかほどまで、ピョンピョンはねて行きましたが、山のぼりでは、ジロッポに負けないヤトも、丸木橋の上から、ふかい谷川を見おろすと、足がすくんでしまって、もう前へも後へも、はねることもとぶこともできません。

 

 そして………

  「しまった――」

と、思ったときは、足をすべらして、でんぐり返って、急流へおちていました。

 

 さあ、たいへんです。

 ヤトは、まだ、およぎを知りません。流れにのまれて水をのみ、いきもつまりそうです。もがきにもがいて、流れを前足でかき、水を後足でけると、やっと顔だけが、水面にうかびあがりました。だが、少しでもゆだんをすると、すぐ頭からしずんでいきます。

 で、一生けんめいに四本の足に力をこめて、水をかいたり、流れをけったりしていると、顔もうかんで、少しづつ前へ進んでいくような気がしました。

 それで、また、げん気を出して、向こう岸へおよぎ着こうとしましたが、水のつめたさとつかれとで、足の自由がきかなくなって流れにのまれ、ついになんにもわからなくなってしまいました。

 

 それから、しばらくたって………

 ヤトは、ゆめうつゝのうちに、なんだか、ポカポカからだがあたたまる感じがしたので、目を細く開いて見ると………

 そこは、くまの岩屋で、こぐまのツキノワといっしょに、母ぐまにだかれてねていました。

 そして日なたぼっこと、せいけつずきなくまの岩屋は、南向きの岩と岩とのすき間から、キラキラ強い日ざしがさしこんで、ねどこのしき草も、よくかんそうしてあたたかでありました。

 

 ヤトは、はじめ、母ぐまにだかれていたので、ちょっとおどろきましたが、ツキノワがそばから………

  「ヤトさん、どうしたのだ――もう少しでおぼれるところだったよ――しばらく、ぼくたちの岩屋で休

   んでいくがいいよ」

と、いってくれたので、ヤトは安心して………

  「ありがとう――」

 そういって、ツキノワのほうに頭をさげると、

  「いや、ぼくが、助けたのじゃない――おかあさんが、流れでおぼれていた君を岸へひきよせて、口に

   くわえて岩屋まで運んでくださったんだよ」

と、ツキノワは、母ぐまの顔を見て、ニッコリとわらいました。で、ヤトも母ぐまのほうへふり返って………

  「ありがとうございました」

と、ていねいに礼をいいました。

 

 すると、母ぐまは、

  「私が、来合わせてよかったですね――で、また、どうして丸木橋なんぞ、わたろうとしなさったんで

   すか――」

と聞いて、ヤトが丸木橋をわたろうとしたことまで知っていたので、矢倉岳のいたずらざるの話をくわしくしました。そして、こんどは、ツキノワのほうへ………

  「――それで、金太郎さんに助けてもらおうと思うんだが、ぼく、どうしても丸木橋をわたることがで

   きないから、ぼくにかわってツキノワさん、このことを、金太郎さんにたのんでくれませんか――」

といって、ピョコンと頭をさげました。

 すると、母ぐまも、さんせいするように………

  「このとうげの、くりの実を、よこ取りするような山ざるたちは、お前も手つだって、こらしめてやり

   なさい」

と、ツキノワへ、きつくいって聞かせました。

 

 そこで、ツキノワがかわって、金太郎の家へいくことになりましたが、そうなると――ツキノワの足には、立木にものぼれる強いつめを持っているので、長い丸木橋でも、平気でわたっていくことができました。

 が、ツキノワも、まだ一度も、金太郎の家へいったことがありません。

 で、ヤトと同じように、よくかぎわけることのできるはなで、金太郎やジロッポのからだのにおいをかぎつけながら、どちらの足あとでもよいから、足あとはないかと、金太郎とジロッポが、いつもやって来る尾根の上へのぼっていきました。

 くまは、いつもなら尾根の上を通るようなことはしません。かならず尾根のどちらがわかの谷間をいくのがしゅうかんです。だが、きょうは、そんなことはいっておられなかったのでしょう。

 

 そして、やがて、尾根の上へのぼり切ると、そこからは川向こうの遠くのほうまで、よく見わたすことができて………

 谷川は、くまの岩屋を少しくだったあたりから、北のほうへ大きく折れて、川はばが広くなると、まがりくねりしてゆるりと流れていました。そして、川の手前のこんもりとした森かげから、白いけむりが一すじ、高く立ちのぼっているのが見えました。

  「あっ、金太郎さんの家だっ」

と、ツキノワは思わず声を立てました。

 

 金太郎は、ツキノワから、いたずらざるの話を聞くと、ジロッポもよんできて、山ざるをこらしめる方法を話し合いました。

 そして金太郎は、

  「さるのむれが、やって来ない前に、早く、くりの実を取り入れておいて、おとりのかごを作って、

   さるをこらしめてやろうと思うが――」

と、そうだんを持ちかけると、二ひきももちろんさんせいしました。

 で、金太郎は、竹やぶから七、八本も、太い青竹を切ってきて、細く長く竹をわると、これで大きなかごをあみました。また、ツキノワとジロッポは、森の中にわけ入って――ツキノワが高い木の上にのぼって、ふじづるを前足のするどいつめでかき切ると、ジロッポが木の下で、つるの根をかみ切って引っぱり、ふじづるを、なん本もなん本も、エッサエッサ川岸まで運んできました。

 

 よろこんだ金太郎は、そのふじづるで、細いなわと太いつなを、長く長くなって、そのなわとつなのはしを、がけに近い杉の木にむすびつけ、なわとつなとが、もつれないように丸木橋をわたって、ふかい谷川の上へ、二本のつり橋をかけました。

 そして、また、細いなわのさきを、かごのつり手にむすんで、太いほうのつなは、つり手に通して、そのはしを大くりの木へしっかりとむすびつけました。

 

 これで、仕事が終わったので、けものたちの家ぞくは、みんな出てきて………

 

       足がら山のくりの木に

       いがぐりぼうずがなったので

       お山のけものはくりの実の

       はじけておちるを待ちました。

 

と、歌いながら、くりの木のまわりを、ぐるっと取りかこみました。

 そこで、金太郎は、くりの木の太いみきを、両うでかかえ………

  「よいさっ、よいさっ、よいさっ――」

 かけ声とともに、力いっぱいゆさぶると、みんなの頭の上から………

 パラパラと、くりの実があられのようにふってきました。

 さぁ、けものたちは、大よろこびです。

 

       お山のけものはくりひろい

       さあさみんなでくりひろい

       足がら山のくりの実は

       みごとにうれてはぜました。

                            (曲譜スカウティング誌五五号一頁)

 

 みんなげん気に歌いながら、取り入れにかかりましたが、

 さて、くりの実を、りすや野うさぎのすへたくわえると、いたずらざるがやってきて、高い木の上のすでも、石だたみの間のすでも、たちまち、たたきつぶされてしまいます。

 で、りすの母親と、野うさぎの母親は、また心配になってきて………

  「山ざるは、私たちの所へは、すぐ、のぼってきますから、心配なことです」

  「私たちの石あななども、わけなく、たたきくずされてしまいますので――」

 二ひきが、どうしたらよいだろうかといった顔つきで話し合っていると、これを聞きつけたツキノワが………

  「では、ぼくたちの岩屋へ、くりの実をあずけなさい――山ざるどもが、おしよせてきても、とうさん

   ぐまの一たたきで、どんな大ざるでも、たたきたおしてくれますよ」

と、こともなげにいいました。

 すると、そばから父ぐまも、

  「ハヽヽヽヽ、それがいい、それがいい、――みなさん、くりの実は、私が身にかえても、かならずま

   もってあげますよ」

 そう、カラカラわらって、力強くいってくれたので、みんなは、くりの実を、くまの岩屋へあずけることになりました。

 

 そうして、けものたちが、くりの実を岩屋へ運んでいる間に………

 金太郎は、いがのついたままのくりの実を、百こばかり集めてかごに入れ、さるの手首がはいるだけの、あみ目にあんだかごのふたを、ふじづるでしっかりとむすびつけました。そして………

 「さぁ、できあがった………」

と、向こう岸のジロッポへ、高く手をふって合図すると………

 ジロッポは、杉の木にむすんでおいた細いなわのほうをくわえて、テクテク歩き出しました。

 で、おとりのかごは………

 太いつなをつたわって、谷川のがけとがけとの中間へ、するする引っぱられて、ふかい急流の、ま上にぶらさがりました。

 

 これで、おとりのかごの用意が全ぶできあがったので――けものたちも、金太郎も、自分のすや家に帰って、その日の夕ごはんは、一年ぶりでくりの実のごち走に、みんな舌づつみをうっていました。

 が、ちょうどそのころから、急に、強い風が吹き出して、夜になると、とうげも谷も、ゴーゴー山鳴りがして、足がら山は、森も林も、大あらしになってしまいました。

 だが、そのよく朝は、すがすがしい秋晴れで、山ぎりがはれてしまうと、朝日にてらされた富士の山が、美しいすがたをくっきり現わしました。

 そして、森や林から………

  「カッコー、カッコー」

 早起き鳥のかっこうが、とうげのみんなを起こしてくれました。

 

 ヤトも、かっこうのげん気な声に目をさまし、つみ石のすき間から、ピョンピョンはねて出て、朝のくう気をむねいっぱいすうと、ていねいにおじぎをして、

  「お日様、お早ようございます――お山もお早ようございます――」

と、たい陽と富士の山へ、朝のあいさつをしてから、思わず、大くりの木を見あげて、

  「あっ、大きなさるがいるっ」

と、高い枝の上に、大きなさるを、一ぴき見つけました。

 この大ざるは、物見のさるです。

 毎年、秋のこのごろ、あらしのよく朝にはかならず、むれを組んでおそって来る矢倉岳の物見の親ざるです。

 

 さるは、昨夜の大あらしにもかかわらず、くりの実が、一つもおちていないので………

  「おかしなことも、あるものだ――」

と、ふしぎそうに、キョロキョロあたりを見まわしていましたが、しばらくして、風に乗ってきたくりのにおいをかぎつけ、おとりのかごを見つけだしました。

  「あっ、向こうの、かごのなかにあるぞ――」

と、くりの木からとびおりると、身がるにつり橋をつたって、かごの上にとび乗りました。

 そして、親ざるが、

  「キッキー!キッキー!」

 一声、二声、さけび声を高くあげたかと思うと、森の向こうから………

 大ざる小ざるが現われて、みんなつり橋をつたってかごにとび乗り、ふたのあみ目から手をさしこんで、くりの実を引っぱり出そうとあせりました。

 が、くりの実をつかんだ手首が、あみ目からぬけません。

 くりの実をはなせばぬける手首を、よくふかざるは、くりの実をはなさないで、かえって強くにぎりしめたので、いがが、手のひらへつきささって、いたくていたくてたまりません。

 さるたちは、もう半気ちがいです。

 

 で、かごを強くゆさぶって、大あばれにあばれると、それにつれて、つり橋も大きくゆれ出しました。

 そのうえ、後から後へと、大ざる小ざるがやって来て、くりの実をとりあい、長いつり橋の上で、見ぐるしいなかまあらそいを、そうぞうしくはじめました。

 大ざるは、小ざるをかきのけ、また、小ざるも、大ざるに負けまいと、かきあい、かみあって――大ざるは、小ざるをしかりつけて………

  「小ざるは、あぶないから、後からだ後からだ――」

 と、大声でどなると、小ざるは、

 「大ざるは、ずるいぞ――小ざるにも、けん利があるんだ――」

 小ざるも、なかなか負けてはいません。

 すると、また、大ざるが、

  「小ざるのくせに、なま意気なっ」

と、大ざるばかりで、くりの実を全ぶ取ろうとするので、

  「大ざるは、おうぼうだぞっ」

 そう、おたがいに、口あらそいをしてから………

  「この、小ざるめ!」

と、大ざるに、強くけりとばされた小ざるが一ぴき、つり橋を、つかみはずして………

  「助けてくれ!――」

と、さけびながら、谷川へおちていきました。

 

 そうしたあらそいが、しばらく続くと、山ざるの重みと大さわぎに、太いつなのつぎ目も、だんだんゆるんで、ついに、まんなかから、ぷっつりと二つに切れて………

  「うわっ!!――」

  「つり橋が切れた!――」

 大ざる小ざるは、切れたつなの両はしにしがみついたまま、じゅずつなぎになって、ド―!!と、ひゞきを立ててなだれのように、みんな谷川へおちていきました。

 

 山のさだめをまもらないで、よそのとうげのくりの実を、よこ取りしようとした矢倉岳の山ざるは、自分たちのよくで、自分たちがこらしめられました。

 しかし、山ざるは、およぐことができるから、急流におちても、おぼれることはありません。

 でも、来年からは、これにこりて、このとうげのくりの実を、よこ取りに来るようなことはありますまい。

 

 

 

 

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